IPOの審査の中で、予算に関する審査は、最重点項目の一つであり、予算整備体制が不十分であれば、それだけで上場延期になります。

ブログの中の人は、上場達成会社の有価証券届出書をいつも確認していますが、上場申請直前期の予算達成状況を記載している珍しい事例がありました。

この記載事例は、レアだと思い、紹介させていただきます。

上場申請直前期の予算に関するマーキュリーリアルテックイノベーターの事例

2022年2月25日にマザーズ市場(現グロース市場)に上場した株式会社マーキュリーリアルテックイノベーターの有価証券届出書には、以下のような記載が存在します。

なお株式会社マーキュリーリアルテックイノベーターの上場申請直前期は第30期であり、申請期は第31期になります。

売上高については、第30期事業年度において前期比で減少しており、1,342,912千円の予算に対して達成率93.4%と予算未達の結果となりました。この要因はコロナウイルス感染拡大に伴うリフォーム及びタウンマンションプラスの不振によるものと認識しております。この二つの事業は外部環境に左右されやすい性質を持つことが確認されたことを受けて、第31期事業年度においては両事業の体制を縮小することを決め、要員を外部環境に左右されにくいプラットフォーム事業に配置転換しております。

また、第31期第3四半期累計期間においては、マンションサマリのSaaS型サービスへのリプレイスによりARRの積み上げを進めたほか、データダウンロードサービスにおけるデータ一括納入等により売上高は増加しております。デジタルマーケティング事業及びシステム開発は安定的に推移しており、1,033,478千円の予算に対して101.5%の達成率となっております。

営業利益については、SaaS型サービスのリリースにより前事業年度において研究開発費として計上していたサービス開発費用がソフトウエアとして資産化されたことにより全事業年度比で増益となりました。しかしながら、売上高の予算未達が響き90,130千円の営業利益予算に対して70.0%と予算未達の結果となりました。また、第31期第3四半期累計期間においては、プラットフォーム事業及びデジタルマーケティング事業の増収による粗利増加、並びに本社オフィスの移転による賃借料の削減等により伸長しており、166,673千円の予算に対して100.8%の達成率となっております。

(出所:株式会社マーキュリーリアルテックイノベーターの有価証券届出書より)

まとめてみますと株式会社マーキュリーリアルテックイノベーターの上場申請直前期の利益予算達成状況は厳しい状態で終わった一方、申請期第3四半期までの収益は、予算から乖離が少なく進捗していると述べているようです。

これを見た限り、上場直前期の営業利益が30%程度、予算未達であったとしても、その理由だけでグロース市場への上場を諦める必要はないという参考事例になるのではと考えます。

上場申請直前期の予算に対する考え方

「上場直前期は、利益計画を達成しなければ、上場出来ない」と誤解されていらっしゃる方が少なくないと思います。

会社経営をする上で、毎期の利益予算必達は、重要な要素の一つである事は否定しませんし、さらに上場直前期は例年より重要性が増すことは間違いありません。

しかし、予算に関しまして、IPO審査で最も重要視されるのは、利益予算の達成状況ではなく、利益予算の精度になります。

さらに言いますと、利益予算を達成したとしても、高い予算精度を持っている会社として評価されず、審査で落ちるケースがあるという事になります。

例えば、固定費が予算と実績に乖離があり、その乖離分を偶然変動費で補うことができた事によって、利益予算を達成したようなケースの会社に対しては、IPO審査で厳しい評価を受けると思われます。

さらに最悪のケースは、IPO達成のために利益予算達成を第一命題とした余り、企業成長のために必要な経費をかけずに利益をかさ上げるという例です。

まとめ

上場申請直前期の予算達成状況を開示資料に記載している株式会社マーキュリーリアルテックイノベーターの事例を紹介させていただきました。

直前期の利益計画未達の原因は、リフォーム及びタウンマンションプラス(ダイレクトメールの配送サービス)の不振と記載させています。

リフォーム業者のキーとなる水回りのトイレや給湯器等が、コロナの影響で部品工場の生産が滞ったことや海上コンテナ船の需給が逼迫したことで仕入に多大な影響が出てきてしまい、リフォーム作業が遅延したり、原価が急騰しました。さらにウッドショック等も重なり、リフォーム業界は、世界的な市場環境の急激な影響をもろに受けた業界のひとつです。

これを事前に予測する事は困難だと思われます。

直前期の利益予算が大幅未達だったとしても、証券会社担当者等の第三者に対して「これは仕方ないわ」「これは事前に読めないわ」と説明出来れば、上場準備作業は継続出来ると株式会社マーキュリーリアルテックイノベーターの記載事例から、改めて読み取ることが出来るのではないでしょうか?

IPOAtoZは、ブログの中の人がレアと思った事例を集めています。今後も継続します。

事例につきましては、こちらに色々ありますので、ご参考になれば、幸甚です。

IPOAtoZでは、Twitterで情報発信しています。

ぜひフォローをお願いします。