コロナショックで、大きな打撃を受けた産業のひとつが外食産業です。政府による緊急事態宣言により、営業自粛が余儀なくされました。
2019年10月18日にジャスダックスタンダードへ上場した株式会社浜木綿(以下では「浜木綿」といいます)は、中国料理を事業とする外食業です。
浜木綿は上場後半年も経たず、コロナショックにより、経営が重大な局面に立たされてしまいました。
ここでは、目論見書等で記載する「事業等のリスク」の内容について検討します。
事業等のリスクについては、次で説明しています。
浜木綿の有価証券報告書チェック
浜木綿が行ったコロナショックに関する開示は次にようになっています。
日 | 開示資料 | コロナショックへの言及 |
---|---|---|
2019/9/11 | 目論見書・有価証券届出書の開示 | なし |
2019/12/13 | 四半期報告書の開示 | なし |
2020/3/10 | 決算短信の開示 | あり |
2020/3/13 | 四半期報告書の開示 | あり |
2020/4/13 | 役員報酬減額発表 | あり |
2020/5/13 | 業績予想修正に関する発表 | あり |
某野党第一党の幹事長が国会で「時間が余ればコロナ対策も」という名言(?)を残したのが2020/3/4であったことを考えてみても、上場承認日段階ではコロナリスクが経済にとって大きなリスクであるとは認識し辛かったと考えられます。
事業等のリスク
浜木綿の目論見書における事業等のリスクの記載に感染症に関する記述が漏れていたのは、浜木綿の経営者や開示担当者だけではなく、監査法人や審査担当者を含め反省材料になると思いますが、決して重大な記載ミスというレベルではないと考えます。
事業等のリスクの記述に関し、金融庁が上場会社に対して行った「記述情報の開示の充実に向けた研修会」の資料には、以下のようなQ&Aがあります。
潜在的なリスク(景気変動、自然災害、気候変動、サイバー攻撃等の中長期的に顕在化するリスク)について、どの程度記載する必要があるか。また、潜在的な事業等のリスクの定量的な影響額や対処方法について、どのように記載すればよいか。
- 潜在的なリスクをどの程度記載するかは、投資家の投資判断にとって重要であるか否かという観点から判断するべきと考えられ、経営者の視点による経営上の重要性も考慮した多角的な検討を行うことが重要と考えられます。
- リスクの重要性は、そのリスクが企業の将来の経営成績等に与える影響の程度や発生の蓋然性を考慮して判断することが望ましいと考えられ、その判断の過程について、投資家が理解できるような説明をすることが期待されます。なお、重要な情報は過不足なく提供される必要があります。
- 例えば、① 事業上、晒されている様々なリスクの中から、影響度と発生可能性を考慮し、取締役会や経営会議等において議論すべきリスクを選定するプロセスを記載し、② 選定プロセスを経て抽出された事業等のリスクを「重要なリスク」として記載する方法が考えられます。
- 「影響の内容」については、定量的な記載に限られるものではありませんが、リスクの性質に応じて、投資者に分かりやすく具体的に記載することが必要と考えられます。
- リスクへの対応策については、実施の確度が高いものを記載するものと考えられますが、実施を検討しているに過ぎないもの等を記載する場合には、その旨を記載し、投資者に誤解を与えないような記載が求められます。
- なお、事業等のリスクの開示にあたっては、一般的なリスクの羅列ではなく、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項を具体的に記載することが求められます。
事業等のリスクに、なんでもかんでも書いてしまう事を書くことを奨励してしまうと、全ての企業の記載内容が同じようなものになってしまい、形骸化に繋がってしまいます。
しかしIPOを目指す会社は、同業他社が事業等のリスクに何を書いているかという情報を入手し、取捨選択をするプロセスは必要です。