4月7日に、東証は「コーポレートガバナンス・コード」の改訂案を公表しました。
東証の「コーポレートガバナンス・コード」の改訂案サイトは、こちらにあります。
この改訂はIPOを目指す会社にとりまして、注目すべき内容でありまして、特に2022年4月以降にIPOをする会社にとりましては、上場審査基準に直接関係します(実質的には、その前にIPOをする会社も同じです。)。
なお、上場会社においては、コーポレートガバナンス・コードの改訂に沿ったコーポレートガバナンスに関する報告書を遅くとも12月末日までに提出することが求められています。
ここでは、IPOを目指す会社にとって影響を受けるであろう項目に絞って、紹介させていただくとともに、どのような対応が必要になるのかを説明させていただきます。
コーポレートガバナンス・コードとは
まずIPOを目指す会社関係者にとりまして、コーポレートガバナンス・コードについて理解が必要になります。
こちらで説明していますので、ご参考ください。
コーポレートガバナンス・コードの改訂に係る上場制度の見直し
コーポレートガバナンス・コードの改訂に伴い、主に次のような点が改正されることが明らかになりました。
新たな市場区分におけるコンプライ・オア・エクスプレイン
「コンプライ・オア・エクスプレイン」とは、「遵守する。もしくは、遵守できない場合は説明する」
新規上場をするにあたっては、ほとんど「コンプライ」であり、「エクスプレイン」の選択肢はほぼ存在しないと考えるべきです。
従前から言われていましたが、新規上場をするにあたっては、
- スタンダード市場及びプライム市場・・・基本原則・原則・補充原則
- グロース市場・・・基本原則
を「コンプライ」することが大原則になりました。
したがいまして、IPOを目指す会社関係者は、コーポレートガバナンス・コードを読み、該当する原則(スタンダード市場及びプライム市場は、全原則。グロース市場は、基本原則)について、対策が必須です。
上場会社が支払う費用が変更
新たな市場区分になると、JASDAQスタンダード市場は、スタンダード市場に位置づけされます。
JASDAQスタンダード市場の場合は、上場審査料200万円、新規上場600万円ですが、スタンダード市場になると上場審査料300万円、新規上場料800万円になり、実質的な値上げになります。さらにその他の手数料も同様に値上げになります。
東証1部、2部、マザーズについては、値上げがありません。
取締役会の機能
取締役会の機能については、主に次のような点が変更になりました。
変更箇所 | 項目 | 現状 | 改訂内容 |
---|---|---|---|
原則4-8 | 独立社外取締役の人数(プライム市場) | 2名以上 | 1/3以上に変更 |
補充原則4-10① | 委員会の人数(プライム市場) | 独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない会社は、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする指名委員会・報酬諮問委員会を設置する | 各委員会の構成員の過半数を独立社外取締役とすることが追加 |
原則4-11 | 取締役会の多様性 | 知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え、ジェンダーや国際性の面を含む多様性と適正規模を両立させる | 職歴と年齢が追加 |
補充原則4-11① | 取締役会の全体としての知識・経験・能力 | 取締役の選任に関する方針・手続と併せて開示 |
|
ここで注目されるのが他社での経営経験を有する人が独立社外取締役に含めることが追加されたことであると考えます。
IPOAtoZでは、東証へ「他社での経営経験を有する者」とは具体的にどういう人なのか、つまり社長経験者として限定して考える必要があるのかを質問しています。社長経験者に限定してしまうと、IPOを目指す会社関係者にとっては大変です。
企業の中核人材における多様性
コーポレートガバナンス・コードでは、社内における女性の活躍促進について言及されていましたが、女性だけではなく、外国人や中途採用者などについても追加されました。
変更箇所 | 項目 | 新設された内容 |
---|---|---|
補充原則2-4① | 企業の中核人材における多様性 |
|
IPOAtoZでは、外国人や中途採用者、女性を管理職へ登用しようとしない会社は、IPO審査においてネガティブになると考えておりませんが、ネガティブとして判断されたとの情報が入り次第、情報発信をさせていただきます。
内部監査の重要性
改訂されるコーポレートガバナンス・コードでは、現行のコーポレートガバナンス・コードより、内部監査の重要度が増していることがわかります。
変更箇所 | 項目 | 現状 | 改訂内容 |
---|---|---|---|
補充原則4-3④ | 内部統制や全社的リスク管理体制の整備 | 内部監査についての記載なし | 取締役会は、内部統制やリスク管理体制の整備に関する運用状況の監督において、内部監査を活用すべき |
補充原則4-13⓷ | 内部監査の報告体制 | – | 取締役会及び監査役会の機能発揮に向け、内部監査部門がこれらに対しても適切に直接報告を行う仕組みを構築することが新設 |
IPOの審査において、取締役会議事録や監査役会議事録に内部監査部門が報告している証跡が残っているかどうかを確認される可能性が高くなったと解釈すべきと考えます。
また、Ⅰの部のコーポレートガバナンスの説明において、内部監査部門と取締役会・監査役会との連携について記載しましょう。
事業ポートフォリオに対する意識
コーポレートガバナンス・コードでは、事業ポートフォリオについても次のような追加がされました。
変更箇所 | 項目 | 新設された内容 |
---|---|---|
補充原則5-2① | 事業ポートフォリオ構築に向けた取締役会の関与 |
|
取締役会において、事業ポートフォリオに関する基本的な方針について議論をし、議事録として記録する必要性を迫られる可能性が出てきました。
その他(プライム市場)
- 開示書類のうち必要とされる情報について、英語での開示・提供を行うべきである。
- プライム市場に上場する「子会社」において、独立社外取締役を過半数選任又は利益相反管理のための委員会の設置
- 議決権電子行使プラットフォーム利用
特に英文開示の体制構築が議論になると思われます。