2022年7月日、東京電力福島第1原発事故を巡り、東電の株主による旧経営陣5人に対する株主代表訴訟の判決で、東京地裁が、うち4人になんと計13兆3210億円の賠償命令を出しました。

一人あたりの賠償額が3兆円を超える巨額でありまして、こんな賠償金を支払うことが出来そうな日本人は、ファーストリテイリングの柳井社長くらいのようであり、叶姉妹やデビ夫人でさえも支払不可能な賠償金額ですね。

東京電力ほどの規模にならなくとも、上場を目指す会社役員は、この東京地裁判決を他山の石として、捉えるべきだと考えます。

役員個人が株主や取引先等から賠償を求められた時のリスクヘッジ策のひとつとして、会社役員賠償責任保険(D&O保険)に入る策があります。

ここでは会社役員賠償責任保険(D&O保険)について取り上げます。

この記事は、信用できる資料を元に書かせていただいておりますが、ブログの中の人は、D&O保険に関しては全く素人なので、専門家の意見や資料等を確認していただきますようお願いします。

D&O保険とは

経済産業省がまとめた「会社役員賠償責任保険(D&O 保険)の実務上の検討ポイント(こちらになります)」では、D&O保険を次のように説明しています。

会社役員賠償責任保険(以下、「D&O 保険」)とは、保険契約者である会社と保険者である保険会社の契約により、被保険者とされている役員等の行為に起因して、保険期間中に被保険者に対して損害賠償請求がなされたことにより、被保険者が被る損害を填補する保険をいう。

(出所:経済産業省 会社役員賠償責任保険(D&O 保険)の実務上の検討ポイントより)

イメージ図は、図1のとおりになります。

図1 D&O保険のイメージ(出所:経済産業省)

D&O保険は、役員個人のための保険でありながら、保険契約を会社が行い、保険料を会社が負担するということがミソのようです。

このような保険が出てきた背景は、役員が損害賠償にビクビクして、積極経営をしなくなるような事を防止し、企業競争力・国際競争力の増大を狙った保険との事です。

D&O保険に関する法的論点

D&O保険を制度化するにあたって、色々、法的・税的論点がありまして、それをQ&A形式でまとめてみました。

根拠や詳細につきましては、以下から確認していただきますようお願いします。

D&O保険の保険料を会社が負担することは法的に問題ないのか?
ありません(根拠:「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」別紙3(法的論点に関する解釈指針)こちらになります)
D&O保険を契約する際の法的手続きは?
利益相反の観点からの取締役会の承認」&「社外取締役が過半数の構成員である任意の委員会の同意を得る」or「社外取締役全員の同意を得る」が必要になります(根拠:「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」別紙3(法的論点に関する解釈指針))
D&O保険は、役員のための保険である。したがって保険料に対し役員の給与課税を行う必要があるか?
必要ありません(根拠:国税庁 新たな会社役員賠償責任保険の保険料の税務上の取扱いについて こちらになります)
D&O保険を契約すると開示が必要になるのか?
有価証券報告書等で開示が必要になる(根拠:内閣開示布令 第二号様式記載上の注意他)

上場達成会社のD&O保険加入事例

上場達成会社の中には、上場前にD&O保険へ加入する事例が多く存在します。

上場前にD&O保険に加入している場合、Ⅰの部への記載が必要になります。

そこで、上場前にD&O保険に加入している例をいくつかピックアップし、紹介させていただきます。

役員(取締役と監査役)を被保険者としてD&O保険を契約していた事例

当社の取締役および監査役は、会社役員賠償責任保険(D&O保険)に加入しており、取締役および監査役が業務に起因して損害賠償責任を負った場合における損害(ただし、保険契約上で定められた免責事由に該当するものを除く。)等を填補することとしております。なお、保険料は、全額を当社が負担しております。

(出所:モイ株式会社 Ⅰの部より)

取締役と管理職従業員を被保険者としてD&O保険を契約していた事例

当社は、会社法第430条の3第1項に規定する役員等賠償責任保険契約を保険会社との間で締結しております。当該保険契約の被保険者の範囲は当社の取締役及び管理職従業員であり、被保険者は保険料を負担しておりません。当該保険契約により被保険者の職務の執行に起因して、損害賠償請求を受けた場合に被保険者が法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害が填補されることとなります。ただし、被保険者の職務の執行の適正性が損なわれないようにするため、法令違反の行為であることを認識して行った行為に起因して生じた損害等の場合には填補の対象としないこととしております。

(出所:INTLOOP株式会社 Ⅰの部より)

子会社の役員、管理職従業員を含めて被保険者としてD&O保険を契約していた事例

当社は、会社法第430条の3第1項に定める役員等賠償責任保険契約を保険会社との間で締結しております。当該保険契約の被保険者の範囲は、当社、当社が直接・間接問わず50%超出資するすべての会社並びに会社法上の子会社の取締役、執行役、監査役、執行役員、会計参与、管理・監督者の地位にある従業員であり、被保険者は保険料を負担しておりません。

被保険者が会社役員等としての業務行為に起因して損害賠償請求がされた場合、当該契約により、かかる損害につき、補填することとしておりますが、被保険者の職務の執行の適正性が損なわれないようにするため、故意又は重過失に起因して生じた損害は補填の対象としないこととしております。

(出所: PHCホールディングス株式会社 Ⅰの部より)

まとめ

会社役員賠償責任保険(D&O保険)について紹介させていただきました。

上場を達成すれば、株主をはじめとするステークホルダーが爆発的に増加するため、上場前と比較にならないレベルで株主代表訴訟を受けるリスクが増すことになるため、上場前にD&O保険加入に向けた検討をすることは、合理的であると思われます。

ちなみに、三井住友海上のホームページによれば、三井住友海上のD&O保険の支払限度額は、Maxで10億円でした。

東証の株主代表訴訟クラスであれば、雀の涙ですね。

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