KHCのIPO

2019年3月19日に上場した株式会社KHCの目論見書における【コーポレート・ガバナンスの状況等】の中の【⑤役員報酬等】の中に以下のような文面があります。

株式会社KHC 目論見書より引用

~(前略)~取締役(社外取締役除く)に対し、当社の企業価値の持続的な成長に向けた健全なインセンティブとして機能させるとともに、対象取締役と株主との一層の価値共有を進めることを目的として、新たに譲渡制限付株式の付与のための金銭報酬又は金額が将来の株価に連動する金銭報酬を支給することを決議しております。~(後略)~

通常、取締役への報酬は、固定報酬と賞与で構成されています。しかしKHCの場合は、「譲渡制限付株式の付与のための金銭報酬」又は「金額が将来の株価に連動する金銭報酬」を支給することが可能になる決議がされていることがわかります。

ここでは、株式会社KHCが採用した譲渡制限付株式報酬制度について説明します。

譲渡制限付株式報酬制度とは

取締役への報酬は、通常固定報酬と賞与で構成されています。

それに代わり、毎月の給与や毎年の賞与とは違い、自社株式や金銭等を使って刺激を与え、動機付けを行うことによって、働く意欲を高め、会社の業績向上を図る取り組みは、上場企業で活発に行われていて、日本政府もその取り組みを後押ししています。

コーポレート・ガバナンス・コードでは、以下のような文面が存在します。

補充原則4-2①

取締役会は、経営陣の報酬が持続的な成長に向けた健全なインセンティブとして機能するよう、客観性・透明性ある手続に従い、報酬制度を設計し、具体的な報酬額を決定すべきである。その際、中長期的な業績と連動する報酬の割合や、現金報酬と自社株報酬との割合を適切に設定すべきである。

税制においても、この動きの後押しをしていまして、2016年度税制改正において、譲渡制限付株式報酬制度や業績連動報酬が、損金算入を認めることになりました。詳しくは、以下のサイトをご参照ください。

ここで言われる譲渡制限付株式報酬制度とは、ざっくり言うと以下のようなフローになります。

  1. 譲渡制限付株式を付与することを目的とした金銭報酬債権を役職員に支給し、同時にその債務を会社が負う決議をする
  2. 例えば「A年B月C日まで勤務した場合、A年B月C₊1日に譲渡が可能になる」という譲渡制限を付した株式を発行する決議をする(しかし発行するのは、あくまでも普通株式であり、譲渡制限の内容については、割当契約書内に定める)
  3. 各役職員が支給された金銭報酬債権による現物出資をして、譲渡制限株式の割当を受ける。
  4. A年B月C₊1日になれば譲渡制限付株式の譲渡制限が外れ、自由に譲渡が可能になり、役職員はHappy!

詳しくは、以下のサイトをご覧ください。

国税庁 「役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)

経済産業省「「攻めの経営」を促す役員報酬-企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入の手引-

非上場会社の譲渡制限付株式報酬制度

近年、上場企業が役員に対して採用する株式報酬制度はストックオプションではなく、KHCが決議した「譲渡制限付株式報酬制度」や「株価連動報酬制度・業績連動報酬制度」が主流になりつつあります。

しかし、非上場企業が採用するインセンティブプランの代表例は、税制適格ストックオプションであり、KHCが決議したような株式報酬制度ではありません。

税制適格ストックオプションにつきましては、こちらで説明しています。ぜひご参考ください。

税制適格ストックオプション【IPO用語】

非上場企業が「譲渡制限付株式報酬制度」や「株価連動報酬制度・業績連動報酬制度」を使わない理由は、主に以下のようなことが考えられます。

  1. 税制適格ストックオプションは、株式報酬額がゼロである一方、譲渡制限付株式は、株式報酬費用としての費用計上が必要になる。
  2. 株式報酬による報酬額を決定した時点が非上場会社である場合は、株式報酬費用に対して損金算入できない。
  3. (上場会社、非上場会社関係なく)同族会社の場合、業績連動給与を採用しても、損金算入できない。

念のため申し上げますと、非上場会社が株式報酬制度を採用するにあたって、損金算入が可能になる方法も存在します。

それは、いわゆる「パフォーマンスシェア」というものです(しかし、非上場会社にとっては、ストックオプションを採用する方が利便性等が高いため、説明は省略させていただきます)。

なお、KHCは、会社法第361条に則り、取締役に対する報酬枠の決議を株主総会で行ったにすぎず、目論見書によりますと、実際に株式報酬を割り当てた形跡がありません。