IPO準備をすると「同族」や「親族」、「近親者」、「血族(けつぞく)」、「姻族(いんぞく)」というような用語がよく出てきます。

法規則によって使い分けや定義が異なるのが面倒なところであります。

ここでは、これらの言葉が上場準備におきまして、どのように使われているかを紹介させていただきます。

上場準備と血族

血族とは

血族とは、血縁関係にある人、つまり血が繋がっている人のことになります。

両親や祖父母、兄弟、子供、孫、姪や甥、従兄弟、はとこなどが該当します。

なお、養子縁組による法律上の血族も含まれることになります。

上場準備における血族の関連事項

上場準備をするにあたって、血族は、次のような用語と関連があります。

  1. 特別利害関係者等」(企業内容等の開示に関する内閣府令第1条31号)
  2. 流通性の乏しい株券等の数」(有価証券上場規程施行規則第8条)

特別利害関係者等、流通性の乏しい株券等の数に関しては「配偶者及び二親等内の血族」が定義に記載されています。

なお、二親等内の血族とは、次のとおりです。

  • 1親等:父母・子
  • 2親等:祖父母・孫・兄弟姉妹

上場準備と親族

上場審査では、役員の親族について、あれこれ問われます。

例えば「妹の旦那の氏名や電話番号、勤務先」や「義理の兄の氏名、住所、電話番号、勤務先」といったことが問われる場合があります。

関係が円満な場合は良いのですが、疎遠な関係の場合や離婚調停中などの方がいた場合、非常に厄介ですね。

親族とは

親族とは、自身の血族と配偶者の血族のことをいいます。

配偶者の血族を「姻族」と言います。

なお、時々誤解があるのが、義兄弟・義姉妹の子供(甥・姪)は親族に入りますが、義兄弟・義姉妹の配偶者は、親族の範疇に入りません。

義兄弟・義姉妹の配偶者は、親族ではなく、親戚・親類の範囲になります。

ちなみに親戚や親類は、親族とは違い、法令で範囲を定められておらず、血縁関係や婚姻関係があれば、親戚・親類に含まれることになります。

(親戚と親類は、上場準備に関連する用語に登場しません)

上場準備における親族の関連事項

上場準備における用語の定義には、親族が多く登場します。

以下に説明させていただきます。

民法上の親族

民法第725条において、↓のように親族について定義されています。

民法第725条

次に掲げる者は、親族とする。
一  六親等内の血族
二  配偶者
三  三親等内の姻族

一般的に親族の用語に関して、「〇親等内の親族」という説明が無い場合、原則、民法725条に定義した親族を使うことになります。

六親等の血族というのは、非常に遠い親戚です。例えば、次のような人が六親等の血族にあたります。

六親等の血族とは
  • いとこの孫
  • ひいおじいちゃんの兄弟の子供など

ちなみにブログの中の人は、自分自身の六親等の血族が誰なのか知りませんし、会った事もありません(そもそも「祖父母の兄弟の孫」や「おじやおばのひ孫」の氏名を知っている人は、世の中に何%いるのでしょうか?)

上場準備において、この民法上での親族の範囲を使う可能性があるケースとは、税制適格ストックオプションにおける大口株主の特別関係者(租税特別措置法29条の2)になります。

大口株主とは、次のような株主です。

大口株主とは
  • 非上場株式の場合:発行済株式の1/3超を保有する株主
  • 上場会社の場合:発行済株式の1/10超を保有する株主

税制適格ストックオプションは、大口株主及び大口株主の特別関係者に対して適用できません。

その特別関係者として民法上の親族が使われています。

つまり、税制適格ストックオプションの適用対象者には、大口株主の親族(民法第725条で定められている親族)が含まれていません。

二親等内の親族

上場準備に関する法令では、二親等内の親族が結構出てきます。

二親等の親族
  • 祖父母
  • 配偶者の祖父母
  • 兄弟姉妹
  • 兄弟姉妹の配偶者
  • 配偶者の兄弟姉妹
  • 孫の配偶者

東証は、二親等内の親族を「近親者」として使っています。

上場準備に関する法規則等では、「二親等内の親族」が多く登場します。例えば次のとおりになります。
表1 「二親等内の親族」が関連する内容例
法規則 条文等 内容
会社法 第2条15号ホ 社外取締役としての不適合者
会社法 第2条16号ホ 社外監査役としての不適合者
会社法施行規則 第3条の2 第3項2号イ他 子会社等及び親会社等の要件
関連当事者の開示に関する会計基準 関連当事者」の範囲
有価証券上場規程他 第2条第42号の2 支配株主」の範囲
二号の四様式記載上の注意 役員の状況 役員間において二親等内の親族関係がある場合には、注記
独立役員の確保に係る実務上の留意事項 独立役員としての不適合者
新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅱの部)記載要領 Ⅱの部における各所記載事項

三親等内の親族

会社法には、「三親等内の親族」があります。

近親者が役員にいる場合、開示することになります。

  • 取締役が、取締役の選任に関する議案、または監査役の選任に関する議案を提出する場合には、株主総会参考書類に記載(会社法施行規則第74条第4項第7項ホなど)
  • 社外役員が事業報告にて報告する事項(会社法施行規則第119条)

会社法施行規則には、「二親等内の親族」と「三親等内の親族」が混在しています。

family

その他にも民法等で四親等内の親族が出てきますが、上場準備ではあまり関係ないと思われますので割愛させていただきます。

姻族とは

姻族とは、配偶者の血族といいます。
したがいまして、配偶者の父母や兄弟姉妹、さらには配偶者の曽祖父母や配偶者の父母の兄弟、配偶者の兄弟の子などが該当します。

しかし上場審査等においては、親族と同等の人して該当される可能性があります。

同族

法人税法第二条には、次のような定義が存在します。

同族会社とは(法人税法第2条 10号より)

会社の株主等の三人以下並びにこれらと政令で定める特殊の関係のある個人及び法人がその会社の発行済株式又は出資の総数又は総額の百分の五十を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合その他政令で定める場合におけるその会社をいう。

(この法人税法条文にある「特殊の関係のある個人」とは、民法第725条(6親等内血族、3親等内姻族)と同じとされています。)

IPOの準備業務において「同族会社」「同族企業」「同族経営」「同族色」という言葉が出てきます。

この場合の同族とは、法人税法の定義とは直接関係なく、家族や親類、親戚等、特別な関係で支配・経営している会社をいいます。

まとめ(2023/2/20一部更新)

この記事は、あくまでも上場準備に関わるようなことについて、紹介させていただきました。

下のような表にまとめてみました。

表2 上場準備における親族・血族・姻族の主な関連箇所

関連箇所 2親等 3親等 6親等
血族 姻族 血族 姻族 血族
特別利害関係者等の要件
流通性の乏しい株式の要件
関連当事者の要件
支配株主の要件
社外取締役・社外監査役の要件
独立役員の要件
監査役、監査等委員又は監査委員の要件
子会社等・親会社等の要件
Ⅰの部記載要領における開示
Ⅱの部記載要領における記載
株主総会参考書類における開示
事業報告における開示
税制適格ストックオプションの適格者要件
民法

注)全て配偶者が含まれます。

上場後は、さらに登場します(例えば、「特別な関係」:金融商品取引法第27条の2第7項第1号 1親等内の親族など)。

また税務や相続に関係して、上場準備とは直接関係ない用語の定義で親族などの用語が登場します。

上場を目指すにあたって、毎年、人事部門は、役員の2親等内の親族と血族をリストアップする必要があります。

親族や血族に関して説明するサイトは、多く存在します。中でもこちらのサイトが最もわかりやすいと思います。