2021年7月5日にかっぱ寿司を運営するカッパ・クリエイト株式会社から次のようなプレスリリースが発表されました。

「当社役員に対する競合会社からの告訴について」⇒こちらになります。

この内容は、カッパ・クリエイト株式会社は、不正競争防止法関連で、カッパ・クリエイト株式会社の田邊社長が、競合の「はま寿司」から告訴され、警視庁の捜索を受けたというものです。

田邊社長は、「はま寿司」の元取締役で、カッパ・クリエイトの顧問になった直後、元同僚から「はま寿司」の売り上げデータなどを数回にわたってメールで受け取っていたという疑いがあり、その行為が営業秘密侵害であると訴えられています。

これまでは転職した従業員が同様な事件を起こしていたということがありましたが、本件は、カッパ・クリエイト株式会社という有名上場企業の社長個人が嫌疑をかけられているため、過去の営業秘密侵害の事件よりも大きくクローズアップされることが予想されます。

このような事があれば、IPOの審査においてもクローズアップされ、審査で問われやすくなります。

ここでは、営業秘密侵害に関しまして、まとめました。

営業秘密侵害の主な事例

営業秘密を不正取得した者、不正取得された営業秘密を使用・開示した者、従業員・退職者で任務に反して使用、開示した者等は、不正競争防止法上営業秘密侵害罪として、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処せられます。

警察庁の公表資料「令和2年における生活経済事犯の検挙状況等について(こちらになります。)では、令和元年が21件、令和2年が22件検挙されたようです。

なお主な営業秘密漏洩について表1にまとめます。

表1 主な営業秘密漏洩事件の例

原告 情報入手の疑い 概要 結果
2014 東芝 SKハイニックス(韓国) NAND型フラッシュメモリの微細化に関する研究データを不正提供 SKハイニックスが東芝へ和解金を支払う
2019 アシックス プーマ アシックスが開発した靴の画像や性能データを不正提供 容疑者逮捕。罰金刑
2020 積水化学工業 潮州三環グループ(中国) タッチパネルに使われる「導電性微粒子」の製造工程に関する情報を不正提供 容疑者逮捕。本ブログ作成段階では、大阪地裁で裁判中
2021 ソフトバンク 楽天モバイル 5G移動通信システムなどに関する営業秘密を不正提供 容疑者逮捕。本ブログ作成段階では、まだ裁判が行われていません

不正競争防止法には、役員や従業員が業務に関して違法行為をした場合、個人だけではなく、法人にも併せて罰せられる「両罰規定」というものがあり、3億円以下の罰金が科されることになります。

営業秘密の3要件

営業秘密侵害に関する裁判などがあったときの最大の焦点は、「これは、営業秘密にあたるのかどうか?」ということのようです。

侵害された情報が営業秘密にあたるのかどうかについては、次のような3つの要件をクリアする必要があるようです。

秘密管理性

  • 秘密として管理されている情報であることが要件にあります。
  • 経済産業省「秘密情報の保護ハンドブック(こちらになります)」には「営業秘密保有企業の秘密管理意思が、秘密管理措置によって従業員に対して明確に示され、当該秘密管理意思に対する従業員等の認識可能性が確保される必要がある」と定められています。つまり、企業は秘密として適切に管理するとともに、情報に接することができる従業員等にとって秘密だとわかってもらう必要があるということになります。

有用性

  • 営業上又は技術上などに有用な情報であること、つまり客観的に事業活動に利用されたり、経費節約や経営効率の改善などで使われるような情報であることが要件になります。

非公知性

  • 公開されていない情報であり、公然と知られていない情報が要件にあります。
  • 「公然と知られていない」とは、入手可能なインターネットや本、新聞、雑誌などの各種媒体に記載されていない、特許を取得して公開されていないなど、情報の保有者の管理下以外では一般的に入手できない状態のことをいいます。

営業秘密を守るための会社対応

営業秘密については、経済産業省の「営業秘密~営業秘密を守り活用する~」(こちらになります)が最も情報量が満載です。

このサイトは、非常に情報量が多いため、ここではその対策内容や対策事例を抜粋して紹介させていただきます。

従業員向けの対策

  1. 秘密情報の全体を把握できる人数を制限する
    • 工程全体の情報を1人の作業員が把握できないようにする
    • アクセス権の範囲については、その秘密情報の内容・性質等を踏まえて、「知るべき者だけが知っている( need to know )」という状態を実現するなど
  2. 情報に接する従業員が情報を持ち出しにくい対策を考える
    • 職場内へのカメラ等の撮影機器の持込みを制限する
    • ポケットのない作業着の着用の義務づけや、私物持込みの際は透明バッグに入れて入室するなどの工夫をするなど
  3. 転職者の入社時に前職の営業秘密情報を遮断する
    • 特に転職者の入社時に、他社の情報を意図せず侵害することを防止するという観点から、入社時に前職の営業秘密情報を社内に持ち込まないという誓約書を徴求する
    • 「役職員等によって自社の営業秘密を侵害されることを防ぐための対策」と同様、「役職員等が他社の営業秘密を侵害することを防ぐための対策」を重要視するなど

退職者向けの対策

  1. 退職に伴う漏えいリスクを低減する対策を考える
    • 退職時だけでなく、入社時やプロジェクト開始時にも秘密保持契約を締結。退職者がキーパーソンの場合は、秘密保持を徹底するために競業避止義務契約を締結する。
    • 退職の申出があったら、速やかに社内情報へのアクセス権を制限。退職時にはすぐにID・アカウントを削除。退職申出前後のメールやPCのログを集中的にチェックしたり、退職後もOB会の開催などで本人の近況を調査するなどして、転職先の商品情報をチェックなど。
  2. 退職率を減らす
    • 働きやすい職場環境や公平な人事評価制度を整備して従業員の企業への愛着を高めることで、人材流出防止とともに情報漏えいリスクを低減。

取引先向けの対策

  1. 開示する情報は必要最低限にする
    • 取引先に対する情報開示は拒否を含めて、最低限にする。また、事前に見積書や取引契約書に開示できない書面や情報を記載する。
  2. 開示する場合は、秘密保持契約を締結する
    • 秘密保持契約には、秘密保持、目的外使用の禁止、契約終了時の書面やデータ等の返還・消去義務等を定めておく。

外部者向けの対策

  1. できる限り、外部への接続を切断する
    • 可能な限り秘密情報は外部ネットワークにつながない機器に保存する。
  2. 不正アクセスや、攻撃型メールの被害を最小限にする対策を考える
    • 外部ネットワークにつながったPC等に秘密情報を保管する場合は、ファイアーウォール、アンチウィルスソフトを導入し、ソフトウェアのアップデートを行う。
    • 秘密情報の電子データを暗号化するなど。

まとめ

ブログの中の人が勤務していた某大手証券会社では、退職者が退職の申し出をした1か月前からのメールや印刷物を総チェックしています。

また出社または退社時間の異常(特にオフィス内に一人でいる時間があったかどうか)についてもチェックをしていました。

机の中の私物を段ボールにまとめる際は、上司や社員に監視された中でまとめていました。

退職者に対する情報遮断を徹底しているが、外資系金融機関です。

外資系金融機関では、リストラがつきものです。

某外資系金融機関では、リストラが決まった社員は、朝、いきなりオフィスへ入ることが出来なくなります。

業務の引継ぎ等は一切無く、宅配便の伝票に住所や電話番号等を書くだけで、作業はほぼ終了らしいです。

IPOAtoZでは、IPO審査や準備に影響しそうな不祥事に関しても記事にしています。こちらです。