上場を達成するためには、稟議規程を作成し、しっかりとした運用を行い、その運用状況の監査を行う必要があります。

でも、稟議って面倒ですよね。

上場を目指す前は、社長に口頭で確認して、社長が「いいよ」と言われれば、OKだったにも関わらず、いちいち文書化して、管理する必要性が出てきます。

そこで、稟議に関して社内から反対論者が多く出現し、IPO推進チームは社内の説得に頭を悩ませる事例が数多存在します。

私は、IPO推進チームの方々が、稟議の重要性に関して、社内に説得する際に使っていただければなぁと思い、記事を作成してみました。

稟議とは何かというサイトは、数多く存在しますので、そのような説明は、省略させていただきます。

なお、稟議の基礎については、シャチハタさんのコラムがわかりやすいです。こちらになります。

上場準備会社は、なぜ稟議が必要なのか

東証の市場の中で最も上場基準がゆる~い市場は、東京プロマーケットです。

東京プロマーケットへの上場審査は、グロース市場やスタンダード市場、勿論プライム市場と比較すると、各段にゆる~い審査です。例えば四半期開示や監査役会、独立役員などを準備する必要さえありません。

東京プロマーケットの新規上場ガイドブックには、次のような箇所が存在します。

J-Adviserによる上場適格性要件の調査・確認

新規上場申請者の企業グループが経営活動を有効に行うため、その内部管理体制が相応に整備され、適切に運用されている状況にあると認められること。

○内部管理体制
・ 稟議規程、決裁権限規程等の承認プロセスについて、必要な調査・確認を実施している
(出所:東京証券取引所「新規上場ガイドブック」より)

東京プロマーケットは、J-Adviserが上場審査を担います。

東証は、その審査項目の中に稟議規程の存在とその承認プロセスに関する調査・確認を定めています。

そこで次のような整理と理解が必要になります。

  • 稟議規程を整備する必要がある
  • 稟議規程の順守状況・有効性を第三者であるJ-Adviserが確認できるようにする必要がある

重ねて申し上げますが、東証は、上場審査が最もゆる~い東京プロマーケットでさえ、上場申請会社は、稟議システムの有効性が必須であると言っています。

つまり会社が上場するためには、”四の五の言わず”、稟議システムの構築が必須になります。

稟議と不正会計

東証は、稟議に対して甘く考えている会社には、上場してほしくないと言っています。

なぜ東証は、稟議を重要視しているのでしょうか?

それは、稟議に対して甘く見ている会社の中に不正会計を行った会社が多々存在するためです。

不正会計が発覚してしまった上場会社は、「改善報告書」というものを東証へ提出します。

一覧は、こちらになります。

この中で、稟議に関する不備が改善報告書に記載されていた数社を抜粋し、紹介させていただきます。

Edulabの改善報告書

  • 今回の調査で検収日と納品日に即した適切な会計処理がなされていない取引等が複数検出されております。事業部門では、顧客との契約に基づいて適切な会計処理を正確に行うために、受注稟議や発注稟議等、各種稟議を適切なタイミングとプロセスに則って運用しなければならないという認識が十分浸透せず、上長及び担当取締役についても、誤った日付が記された検収書が添付された売上報告稟議を承認しておりました。
  • 事業部から申請される、稟議内容を精査する体制が不足し、会計上重要な影響を与えるため取締役会等の会議体に上程すべき基本契約等の締結について、当該契約等に取引金額が記載されていなかったため、付議基準への該当性につき形式的な判断で見落とされ、また、経理を中心とした管理部門による内容の検証が不十分で、取引条件の合理性を確認できていない等、内部統制に課題がありました。

なお、Edulabの会計不正については、こちらの記事で紹介しています。

Edulabとグレイステクノロジーの不正会計の原因の共通点

ひらまつの改善報告書

  • 明確な組織図もなく、当社職員において自己の上司が不明確であったことや、1万円以上の取引に係る案件が全て代表取締役社長決裁であったことにより、決裁手続きの遅延が発生し、その結果、事後稟議が常態化していた等、経営の意思決定プロセスが適切に履践されていなかった上、それに対する監督機能も十分に働いていなかったことから、関連当事者との取引における内部統制システムの欠陥が生じていたものと認識しています。

理研ビタミンの改善報告書

  • 特定の役職者に財務報告に重要な影響を及ぼす取引に関する情報や権限が集中し、意思決定の根拠や重要なリスクについて審議する稟議体制や会議体が整備されておらず、青島福生食品におけるガバナンス体制が不十分でした。

ジェイホールディングスの改善報告書

  • 稟議ルール上求めていた、稟議申請経緯(取引実施の経緯・背景等)が不動産取引の場合、記載されないことが常態化するなど、不動産取引に係る稟議が形骸化しておりました

まとめ

上場を目指すにあたり、社内から抵抗が出る稟議制度について紹介させていただきました。

ブログの中の人は、今、上場を目指す某企業の規程整備のお手伝いをするという案件に取り組んでおりまして、そのお手伝いの中で、稟議制度に対して、社内から反対派が出ていて困っているとの意見がIPO推進チームの方々から出てきましたので、このような記事を作成させていただきました。

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