令和4年1月28日に内閣府知的財産戦略推進事務局と経済産業省経済産業政策局産業資金課が「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン」(以下「本ガイドライン」といいます)を公表しました。

本ガイドラインの策定は、コーポレートガバナンス・コードの改訂が影響されていますが、上場会社の関係者だけではなく、スタートアップ企業の関係者にも幅広く活用されることを想定されています。

ここでは、ブログの中の人が本ガイドラインについて大事だと考えた箇所を抜粋してみました。

なお、本ガイドラインの本文等については、こちらになります。

「知財・無形資産ガバナンスガイドライン」が検討された背景

コーポレートガバナンス・コードの【原則3-1.情報開示の充実】と【原則4-2.取締役会の役割・責務(2)】には、次のような補充原則が存在します。

コーポレートガバナンス・コード3-1③

上場会社は、経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについての取組みを適切に開示すべきである。また、人的資本や知的財産への投資等についても、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきである。

コーポレートガバナンス・コード4-2②

取締役会は、中長期的な企業価値の向上の観点から、自社のサステナビリティを巡る取組みについて基本的な方針を策定すべきである。また、人的資本・知的財産への投資等の重要性に鑑み、これらをはじめとする経営資源の配分や、事業ポートフォリオに関する戦略の実行が、企業の持続的な成長に資するよう、実効的に監督を行うべきである。

↑で取り上げた2つの補充原則の赤字箇所に対応するためのガイドラインになっています。

「知財・無形資産ガバナンスガイドライン」の目的

欧米企業は、企業価値に占める無形資産価値の割合が大半であるにも関わらず、日本企業は今も有形資産価値の割合が大きい。そこで知財・無形資産に関して、企業経営者と投資家との間で相互理解やコミュニケーションを深めて、知財・無形資産への積極的な投資に繋げることを目的としています。

「知財・無形資産ガバナンスガイドライン」のエグゼクティブサマリー

本ガイドラインは、次のような整理がされています。

  • 5つのプリンシプル(原則):企業・投資家・金融機関向け
  • 7つのアクション:企業向け

以下に「5つのプリンシプル(原則)」と「7つのアクション」について、抜粋しました。

5つのプリンシプル(原則)

① 「価格決定力」あるいは「ゲームチェンジ」につなげる

  • 企業は、知財・無形資産を活用した高付加価値を提供するビジネスモデルを積極的に展開し、価格決定力につなげることで、製品・サービス価格の安易な値下げを回避し、事業活動の成果を高効率に回収することや、発想の大転換を伴うイノベーションによる競争環境の変革(ゲームチェンジ)につなげることによって、新たな課題解決の価値化や自社に有利な競争環境をもたらすことなどにより、自社の持続可能性を高める企業価値の向上を達成していくことが重要である。

② 「費用」でなく「資産」の形成と捉える

  •  イノベーションで新たな市場が確立されるまでの市場創成期においては、ある程度の赤字を覚悟してでも十分な知財・無形資産への投資を行っていくことが重要であるが、そのためには、経営者は、知財・無形資産の投資は単年度「費用」でなく「資産」の形成という発想を持つことにより、安易に削減の対象とすることのないよう意識することが重要である。こうした意識を持つことで、投資家からは、中長期的な企業価値の向上に向けた意欲があると評価されることにもつながる。金融機関による融資判断に必要な事業性評価に資すると考えられる。

③ 「ロジック/ストーリー」としての開示・発信

  • 企業は、自社の強みとなる知財・無形資産が、どのようにサステナブルな価値創造やキャッシュフローの創出につながるかについて、説得的に投資家や金融機関等に対して説明し、必要な再投資のための資金の獲得につなげたり、あるいは社内外の関係者との戦略の共有化を図るためには、知財・無形資産の投資・活用戦略を「ロジック/ストーリー」として説得的に説明することが重要である。

④ 全社横断的な体制整備とガバナンス構築

  • 社内の幅広い知財・無形資産を全社的に統合・把握・管理し、知財・無形資産の投資・活用戦略の構築・実行・評価を取締役会がモニターするガバナンスを構築することが重要である。
  • 取締役会において戦略を議論することは、社内の議論を投資家や金融機関への説得的な説明に耐えうる「骨太の議論」へ昇華させることにも資する。

⑤ 中長期視点での投資への評価・支援

  • 知財・無形資産の投資・活用は長期的な取組であり、価値創造やキャッシュフローの創出につながるまでに一定のタイムラグが生じることも多いことから、投資家や金融機関は、企業の取組を長期的な観点から評価し、納得できる説明があるのであれば、短期的には収益を圧迫したとしても、その経営方針を支持し、大胆な知財・無形資産への投資を理解し支援する姿勢が求められる。
  • 近年、ESG 投資の要請が高まっている中、投資家や金融機関は、例えば環境面の制約(リスク)を長期的にプラスの価値評価(機会)につなげ、中長期的に ESG 課題の解決につながるような知財・無形資産の投資・活用戦略については、その経営判断を後押しする積極的なアクションが求められる。

知財・無形資産の投資・活用のための7つのアクション

• 企業は、本ガイドラインに加え、価値協創ガイダンスや国際統合報告フレームワーク、経営デザインシートなども参照しながら、知財・無形資産の投資・活用戦略の構築・開示・発信と取締役会による実効的な監督(ガバナンス)を進めていくことが求められる。

  1. 現状の姿の把握
    • 自社の現状のビジネスモデルと強みとなる知財・無形資産の把握・分析を行い、自社の現状の姿(As Is)を正確に把握する。
  2. 重要課題の特定と戦略の位置づけの明確化
    • 技術革新・環境・社会を巡るメガトレンドのうち自社にとっての重要課題(マテリアリティ)を特定したうえで、注力すべき知財・無形資産の投資・活用戦略の位置づけを明確化する。
  3. 価値創造ストーリーの構築
    • 自社の知財・無形資産の価値化が、どのような時間軸(短期・中期・長期)でサステナブルな価値創造に貢献していくかについて達成への道筋を描き共有化する。具体的には、目指すべき将来の姿(To Be)を描き、強みとなる知財・無形資産を、事業化を通じて、製品・サービスの提供や社会価値・経済価値にいかに結びつけるかという因果関係を明らかにした価値創造ストーリーを構築し、これを定性的・定量的に説明する。
  4. 投資や資源配分の戦略の構築
    • 知財・無形資産の把握・分析から明らかとなった自社の現状の姿(As Is)と目指すべき将来の姿(To Be)を照合し、そのギャップを解消し、知財・無形資産を維持・強化していくための投資や経営資源配分等の戦略を構築し、その進捗を KPI の設定等によって適切に把握する。
  5. 戦略の構築・実行体制とガバナンス構築
    • 戦略の構築・実行とガバナンスのため、取締役会で知財・無形資産の投資・活用戦略について充実した議論ができる体制を整備するとともに、社内の幅広い関係部署の連携体制の整備、円滑なコミュニケーションの促進や関連する人材の登用育成に取り組む。
  6. 投資・活用戦略の開示・発信
    • 法定開示資料の充実のみならず、任意の開示媒体(統合報告書、コーポレート・ガバナンス報告書、IR 資料、経営デザインシート等)、さらには、広報活動や工場見学といった機会等も効果的に活用し、知財・無形資産の投資・活用戦略を開示・発信する。
  7. 投資家等との対話を通じた戦略の錬磨
    • 投資家や金融機関その他の主要なステークホルダーとの対話・エンゲージメントを通じて、知財・無形資産の投資・活用戦略を磨き高める。

投資家や金融機関に伝わる知財・無形資産の投資・活用戦略の構築・開示・発信

  • 企業は、将来に向けどのような知財・無形資産の活用により、どのような価値を顧客や社会に提供し、キャッシュフローの創出に結びつけ、サステナブルな企業価値向上につなげていくかについての知財・無形資産の投資・活用戦略を構築し、これを説得力のある「ロジック/ストーリー」として投資家や金融機関に開示・発信していくことが求められる。
  • 開示・発信されるべき内容は、保有している知財の単純なリストなどではなく、その企業が、どのような社会的、経済的価値創出を行おうとしているのか、そのためにどのような知財・無形資産を活用して、どのようなビジネスモデルで価値提供とマネタイズを実現することを目指すのかという戦略的意思の表明である。
  • 会計情報の開示以外の手段により、知財・無形資産の投資・活用戦略に係る情報を、投資家や金融機関に適切に発信する手段が求められる。

戦略を構築・実行する全社横断的な体制及びガバナンスの構築

  • 知財・無形資産は、それ単独で価値創造に結びつくものではなく、ビジネスモデルにおいてその役割や機能が位置づけられることによって初めて価値創造につながるという特徴がある。したがって、社内の幅広い知財・無形資産を全社的に統合するための体制構築が求められる。
  • 知財・無形資産のスコープの広さに鑑みれば、知財・無形資産の投資・活用戦略の構築・実行に向け、社内で横串を刺すような体制は不可欠である。

知財・無形資産に関する体制について、いくつかの事例が取り上げられています。その中でブリヂストンの事例を紹介します。

ブリヂストンの事例

ブリヂストンでは、経営とのコミュニケーションを実効的なものとするため、

  1. IP ランドスケープを携えて事業部に日常的に入り込んでいくことで、
  2. 事業部を経由して経営に届くと知財コミュニケーション土台ができる、
  3. 結果として、知財から経営/取締役への直接コミュニケーションも響くようになるとともに、事業部を経由して経営に届く知財コミュニケーションが厚みを増している。

ブリヂストンの知財

出所:「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン」より

まとめ

令和4年1月28日に公表された「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン」の一部を抜粋して紹介させていただきました。

本ガイドラインは、「バージョン1.0」となっていることからも、今後、継続的に改訂されることになっておりまして、今回は要約ではなく、あえて抜粋という形を取らせていただきました。

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