親引けの事例

2019年7月24日に東証マザーズへ上場した株式会社ビーアンドピーのⅠの部には、以下のような記載があります。

株式会社ビーアンドピーのⅠの部より

当社は、いちよし証券株式会社に対し、上記引受株式数のうち、7,600株を、福利厚生を目的に、ビーアンドピー従業員持株会を当社が指定する販売先(親引け先)として要請しております。~(中略)~

なお、親引けは、日本証券業協会の定める「株券等の募集等の引受け等に係る顧客への配分に関する規則」に従い、発行者が指定する販売先への売付け(販売先を示唆する等実質的に類似する行為を含む。)であります。

ここでは従業員持株会に対する親引けについて、とりあげます。

従業員持株会への親引け

IPOを行うとき、株式の募集と売出しに係る株式数の 10%を限度として従業員持株会に対して、親引けが出来ます。

従業員持株会と親引けについては、こちらで説明しています。ご参考ください。

従業員持株会【IPO用語】

親引け【IPO用語】

親引けは、IPO前に従業員持株会を設立した場合、持株会会員にとっては最大のメリットです。また親引けを行うと、公募する株式に対する貴重性を上げる効果があるため、IPO直後の株価形成に効果を期待できます。

IPOを達成した会社は、どれくらい親引けを行っているのかを分析してみました。それはこちらをご参考ください。

持株会への親引けを分析してみました【IPO分析】

従業員持株会へ親引けをした場合の規制

従業員持株会に親引けをするのは、IPOによって従業員がメリットを受けるチャンスであり、積極的に採用すべき施策であると考えますが、留意点があります。

「株券等の募集等の引受け等に係る顧客への配分に関する規則」の中に以下のような条文が存在し、その条文を遵守する必要があるためです。

「株券等の募集等の引受け等に係る顧客への配分に関する規則」第2条2項3号

当該募集に係る払込期日若しくは払込期間の最終日又は当該売出しに係る受渡期日から180日を経過する日まで継続して所有することの確約を、主幹事会員(引受規則第2条第9号に規定する主幹事会員をいう。以下同じ。)が親引け予定先から書面により取り付けること。

「受渡期日から180日を経過する日まで継続して所有する」ということによる実務的な弊害があります。

従業員持株会の会員が退職すると、自動的に従業員持株会を退会するのが通常ですが、親引けを行ってしまうと上場後180日間はその手続きが出来なくなるということになります。

まず退職者が出てしまうと、一旦休会手続きをし、上場後180日を超えたところで退会手続きを行うという2度手間が発生します。

もし退職者と退職後、連絡がつかなくなるということが発生すると、退会手続きが円滑に進まず面倒なことになります。最悪のケースは失念株が従業員持株会の中に存在してしまうという事態になってしまい、それで悩んでいる持株会事務局は意外と多く存在します。

なおその他にも、親引けを行った株式の引き出し処理手続きが出来なくなるという留意事項もあります。

(従業員持株会からの従業員の脱退に伴う割当株式の譲渡を行う場合は、「継続所有等に係る確約を証する書面」の提出により、退会処理が認められますが、リスクがあります)