Ⅰの部には、【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】という項目があります。

その項目に対する「記載上の注意」には、「最近日現在における連結会社が優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題について、その内容、対処方針等を経営方針・経営戦略等と関連付けて具体的に記載すること。」があります。

IPOAtoZでは、2019年1月以降に上場を達成した200社の【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】に何が書かれているかを調査しました。

ここではその内容をランキング形式でトップ5を紹介するとともに、記載事例を紹介させていただきます。

第1位 人材採用・育成(76%)

上場を達成した約3/4の会社が人材採用と育成を経営課題に取り上げています。

ダントツです。

ベンチャー企業経営者は、人材採用にもっとも頭を悩ませていることがわかりますね。

AI inside株式会社の記載事例を紹介します。

優秀な人材の確保(出所:AI inside株式会社 Ⅰの部より)

当社は、今後の事業拡大に伴い、当社の企業理念に共感し高い意欲を持った優秀な人材を継続的に採用していく必要があると考えております。労働市場における知名度の向上を図り採用力の向上に努めるとともに、業務環境や福利厚生の改善により採用した人材の離職率の低減も図ってまいります。

第2位 コーポレートガバナンス・内部管理体制強化(54%)

ブログの中の人は、収益性向上に直接関係することが2位だと予想していましたが、意外とそうではありませんでした。

収益性向上のための体制強化に比べれば、コーポレートガバナンス体制強化なんて大したことないと甘くみていた会社経営者が多かったのでは?または、上場達成には業績や成長性よりも、内部管理体制がボトルネックにあった会社が多かったのでは?と考えています。

株式会社東京通信の記載事例を紹介します。

コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の強化(出所:株式会社東京通信 Ⅰの部より)

中長期的な企業価値の向上と持続的な成長の実現に向けて、コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制のさらなる強化が重要であると考えております。経営の健全性、公正性の観点から、コーポレート・ガバナンスの実効性を強化するために、リスク管理・内部統制・コンプライアンスへの取り組みを徹底し、内部管理体制のさらなる強化に努めてまいります。

チャート

第3位 新事業創出・新商品・新規サービス展開(49%)

新たな事業や商品、サービス展開をすることを課題にあげた会社が98社ありました。

上場を達成した企業経営者は、既存事業における収益力アップよりも、新事業・新商品・新サービスを経営課題に挙げる方が多かったということになります。

東和ハイシステム株式会社の記載事例を紹介します。

新しい技術を取り入れた商品開発について(出所:東和ハイシステム株式会社 Ⅰの部より)

当社はこれまで、電子カルテ機能とレセプト機能を備えた基幹システムに、タブレット端末を活用したインフォームドコンセント機能及び歯科医院の運営管理の効率化を推進する機能を融合させ、これらを一元的に管理・運営する統合システムを独自に開発し、2020年2月には受付と精算を担う全自動精算機など顧客ニーズに応えた商品を提供してまいりました。

しかしながら現在、新型コロナウイルス感染症の影響により、非対面型・非接触型のツールや、在宅での事務作業が可能となる業務推進ツール、そして限定的ではありますが解禁されたオンライン診療等に高い関心が寄せられております。さらに、厚生労働省による「オンライン資格確認システム」(注)の導入も推進されており、今後の歯科医療業界は一層の電子化の進展が見込まれると予想されます。特に歯科医院においては、従来のカルテ、レセプト、オンライン診療、経営分析等を医院運営の業務効率改善の観点から一元的に管理したいとする需要が高まると予想され、ビジネス環境は大きな転換点を迎えていると考えております。

このようなニーズに対して当社は、AI(人工知能)を活用した新商品や、クラウド基盤を経由した電子カルテ統合システムと各種のアプリケーションやツールとの連携を図ることで対応することが重要と考えております。2020年6月には、歯科医院自ら新型コロナウイルス感染症の影響の程度を分析することも可能とするアプリケーションとして「Doctor アシスト Pro」をリリースいたしましたが、より一層の利便性ある商品・サービスの開発に注力する所存です。

具体的には、スマホやタブレットを活用した予約システムや経営分析システムの開発、SNSとの連携による医院と患者の新しいコミュニケーションの実現、スマホ診察券の導入、オンライン診療機能などを備えたクラウド型統合システムの開発が重要と考えております。また、「オンライン資格確認システム」への対応として「Hi Dental 資格確認パック」(資格確認端末PC、連携ソフト、電子カルテ連動作業) のリリースを企画しております。

第4位 営業力強化・顧客拡大・シェア拡大(43%)

ブログの中の人は、営業力強化が2位と予想していましたが、意外と少なく、上場達成企業の半分にも満たしていませんでした。

どうでもいい話ですが、IPOAtoZの最大の経営課題は営業力強化です。

株式会社松屋アールアンドディの記載事例を紹介します。

営業力の強化(出所:株式会社松屋アールアンドディ Ⅰの部より)

日々変化する市場環境に対応するために、適切な判断と迅速な行動を兼ね備えた営業力の強化が必要であると考えております。今後、海外市場で大きな需要が見込まれることから、優秀な人材の継続的な採用活動を行うとともに、社内教育・育成を進め、海外での営業力の強化にも努めてまいります。

第5位 事業パートナー強化・販路拡大(29%)

4位「営業力強化・顧客拡大・シェア拡大」とよく似た内容ですが、4位は自社の営業体制強化を経営課題として考えている順位でした。5位は自社ではなく、商社や販売店など他社との関係を強化して収益力をアップすることを経営課題とする順位でした。

株式会社ゼネテックの記載事例を紹介します。

エンジニアリングソリューション事業における代理店網を活用した販売力の強化(出所:株式会社ゼネテック Ⅰの部より)

これまでに約500社の販売店と約3,500社のユーザーに製造業向けソリューションサービスを提供してまいりました。今後の製造業の現場では、一層の省力化・効率化が必要となり高度な設備の需要が見込まれ、特に、中小企業向けには新規開拓余地が大きく残っていると期待されております。そのためには、効率的な営業が必要となり、代理店網を活かした販売力強化への取組み拡大を図ってまいります。

日本企業の経営課題ランキング

一般社団法人日本能率協会が日本全国の企業を対象にして、日本国内企業に経営課題について、毎年アンケート調査しています。2022年度の調査は、こちらになります。

日本能率協会の調査結果とIPOAtoZの調査結果の比較を表1にまとめました。

表1 日本能率協会の調査結果とIPOAtoZの調査結果の比較

日本能率協会の調査結果※ IPOAtoZの調査結果
1位 収益性向上 41.4% 4位(43%)
2位 人材の強化(採用・育成・多様化への対応 41.1%

1位(76%)

3位 売り上げ・シェア拡大 35.1% 4位(43%)
4位 事業基盤の強化・再編、事業ポートフォリオの再構築 22.4% 6位(27%)
5位 新製品・新サービス・新事業の開発 21.9% 3位(49%)

※ 出所:一般社団法人日本能率協会日本企業の経営課題2020より

ちなみにIPOAtoZの調査の2位の「コーポレートガバナンス・内部管理体制強化」については、日本能率協会の調査では15位になっています。

相当違いますね。

ということは「コーポレートガバナンス・内部管理体制強化」は、上場準備作業を始めてから上場に至るまでにおいて、限定的にクローズアップされるような経営課題なのかもしれません。

または、上場準備を始めようとすると、経営課題の中に「コーポレートガバナンス・内部管理体制強化」が一気に浮上するということになりやすいのかもしれません。

IPOAtoZのサポート

IPOAtoZでは、Ⅰの部を中心に上場達成した会社の非財務情報を中心にデータ化しております。

そして、そのデータを分析して記事を書いております。その記事は、こちらになります。

IPO AtoZが推進するオンラインサロンでは、そのデータを参考にした議論を行っています。

ぜひご参加下さい!