IPOを目指す経営者が資本政策を考えるときによく間違えるのが、ファイナンスにおける手取り金額です。
手取金額=発行価格×発行株式数-発行諸費用
ではありません。
手取金額=引受価額×発行株式数-発行諸費用
になります。
手取り金額は、発行価格から計算するのではなく、引受価額から計算することになります。
発行価格と引受価額の差は、幹事証券会社の手数料に該当し、それをスプレッドといいます。スプレッドについては、こちらで説明しています。
ご参考ください。
スプレッドは、幹事証券会社の売上高に直結するため、証券会社側はできるだけ大きなスプレッドを求めます。
一方、IPOを目指す会社にとって、スプレッドは、実質的なコスト的要素が高いため(実際はコスト・費用ではありません)、できるだけ小さなスプレッドを希望します。
つまり、ここで上場申請会社と主幹事証券会社の間で交渉が始まります。
スプレッドの設定については規則のようなものがなく、上場申請会社にとっては、相場を知った上で主幹事証券会社と交渉を進めることが重要だと思います。
IPOAtoZでは、Ⅰの部や有価証券届出書等のデータを蓄積しています。
IPOAtoZが、2019年1月以降~本記事記載開始までに東証へ上場達成した202社(4月22日ステラファーマまで)のスプレッドは、どのようになっているのか調査し、相場を調べてみました。
IPOのスプレッドの業界標準は、8%
表1に202社のIPO時のスプレッドについて調査した結果をまとめました。
表1 IPO時のスプレッド
分析結果 | |
---|---|
スプレッドの平均 | 7.8% |
スプレッドが最も高いIPO |
カーブスホールディングス(8.5%) |
スプレッドが最も低いIPO | ローランド(4.7%) |
最も多いスプレッド | 8%(156社/202社) |
出所:各社の有価証券届出書を元にIPOAtoZ調べ
分析した202社のIPOの中で、77%の156社が8%のスプレッドであったということは、スプレッドの業界標準は、8%であるといえると考えられます。
すなわち、上場直前(目論見書の校了前)に上場申請企業と主幹事証券会社との間でスプレッドの攻防戦が繰り広げられることになりますが、それは8%を中心としたものになりそうです。
主幹事証券会社別のIPOのスプレッド
IPOAtoZがまとめるデータを活用すれば、主幹事証券ごとでIPOのスプレッドを調べることができるようになっています。
そこで、ここでは、みずほ証券主幹事のIPOを取り上げさせていただきます。
202社のIPOの中で、40件がみずほ証券の主幹事証券のIPOでした。
みずほ証券の主幹事IPOのスプレッドをまとめると表2のようになりました。
表2 みずほ証券が主幹事証券であるIPOのスプレッド
分析結果 | |
---|---|
スプレッドの平均 | 7.9% |
スプレッドが最も大きなIPO |
共栄セキュリティーサービス、ウィルズなど34社(8.0%) |
スプレッドの最も小さなIPO | プレイド、紀文食品など6社(7.5%) |
最も多いスプレッド | 8%(34社/40社) |
出所:各社の有価証券届出書を元にIPOAtoZ調べ
みずほ証券主幹事のIPOのスプレッドは、8%と7.5%の2つのみ存在したという結果になりました。
「主幹事証券会社別のIPOのスプレッド」は、主幹事証券を選択する際、またはIPO直前の参考データになるかもしれません。
IPO AtoZが推進するオンラインサロンでは、そのようなデータを参考にした議論を行っています。
ぜひご参加下さい!
ファイナンスの規模別のIPOのスプレッド
一般的な物品等の取引において、多くの量の販売取引であればあるほど、単価が下がります。
逆に言えば、少量の販売取引になればなるほど、単価が上がります。
前述しましたが、スプレッドは、証券会社の売上高に直結し、上場申請会社にとってはコスト的なイメージがあります。
つまり、ファイナンスの規模が大きい上場申請会社の方が有利になる、つまりスプレッドを下げる交渉がしやすい、その反対にファイナンスの規模が小さなIPOは、スプレッドが高くなりやすいと仮定し、ファイナンス規模別のIPOのスプレッドを分析してみました。
表3 IPOのファイナンス規模別のスプレッド
平均スプレッド | |
---|---|
ファイナンス規模1位~40社 | 7.24% |
ファイナンス規模41位~80社 | 7.92% |
ファイナンス規模81位~120社 | 7.93% |
ファイナンス規模121位~160社 | 7.94% |
ファイナンス規模161位~202社 | 8.00% |
出所:各社の有価証券届出書を元にIPOAtoZ調べ
ファイナンスの規模が大きなIPOになればなるほど、スプレッドは小さくなる傾向があることは間違いなさそうです。
ファイナンス規模のトップ20のIPOの内、スプレッドが8%のIPOは3社のみでした。
一方、ファイナンスの規模が小さなIPOの場合は、全て8%になるという結果になりました。
スプレッドは高いのか
上場申請会社の経営者によっては、証券会社の手数料8%が高すぎると感じる方がいらっしゃるかもしれません。
ブログの中の人は、担当していた半導体商社は、DRAMの粗利は4%(大企業顧客に対しては3%)でした。
その半導体商社は、海外の半導体メーカーから仕入れ、国内大手電器メーカーに販売していましたが、仕入は月末締めの翌月末現金払い、販売は長期の手形になっていたため、資金繰りが大変です。
そんな会社経営者の中には、「うちの会社は4%なのに、なんで8%も取るんやあ!」と感じる方がいらっしゃるかもしれません。
では、上場会社が行うファイナンスと比較すると「こんなもんかぁ」と納得していただける方がいらっしゃると期待し、上場会社のファイナンスのスプレッドを無作為に何社か調べてみました。表4に10社まとめましたので、ご参考ください。
表4 上場会社のファイナンスのスプレッド例
会社名 | スプレッド |
---|---|
株式会社アンビスホールディングス | 4.6% |
レシップホールディングス株式会社 | 4.6% |
株式会社早稲田アカデミー | 4.6% |
株式会社ショーエイコーポレーション | 4.6% |
株式会社アンビスホールディングス | 4.6% |
東海ソフト株式会社 | 5.2% |
恵和株式会社 | 5.3% |
株式会社Lib Work | 5.7% |
株式会社OSGコーポレーション | 6.2% |
オルバヘルスケアホールディングス株式会社 | 6.8% |
株式会社エコミック | 7.3% |
(出所:各社発行の有価証券届出書を元にIPOAtoZ調べ)
IPOAtoZのサービス
IPOAtoZは、Ⅰの部等の情報をデータ化し、収集しておりまして、その中にIPO時に必要となるコストに関する情報も収集しています。
IPO AtoZが推進するオンラインサロンでは、そのデータを参考にした議論を行っています。
ぜひご参加下さい!
IPOAtoZは、IPOの最新情報をTwitterで発信しています。ぜひフォローをお願いします!