IPOの審査は、主幹事証券会社による審査と東証の審査があります。

その間、予算に比べて業績の進捗率が悪い場合、「1カ月だけ上場を延ばして様子を見ましょう」とか「足元の業績をしっかりと確認してからIPOしましょう」という事を審査担当者が言い、審査が中断・延長するケースはしばしばあります。

そこで、上場達成企業の有価証券届出書提出時点における申請期の業績状況と申請期の事業計画を比較して、業績の進捗率を考察してみました。

元となるデータは、2019年1月以降、2022年9月までに東証(TPM除く)でIPOした会社345社になります。

したがいまして、名証等の地方市場に単独上場した会社は含まれていません。

この記事の元になるデータに関しましては、当ブログの中の人がコツコツとデータを手打ちしたものでありまして、内容等を保証等するものではありません。

さらに意見等に関する内容につきましても、保証等いたしておりません。

第1四半期財務諸表提出会社の事業計画達成進捗率

上場時の有価証券届出書に第1四半期財務諸表が記載されていた会社は、23社ありました。

売上高の事業計画達成進捗率

単純に考えると売上高のラップを年度経営計画の25%以上刻んでいれば、良好と思われますが、勿論そんな単純ではありません。

23社の売上高について、申請期の第1四半期実績と経営計画を比較した表を表1に示します。

表1 2019年以降にIPO達成した会社の内、第1四半期財務諸表提出会社の第1四半期売上高の進捗

進捗率平均 22.9%
進捗率中央値 23.7%
最低進捗率 1.2%(モダリス)

進捗率の平均は、22.9%でした。最低進捗率1.2%となっているモダリスを異常値と考え、モダリス以外で進捗率を再計算すれば、23.9%です。

なお、「モダリス」は、申請期の売上計画は1,100百万円以上となっておりましたが、申請期第1四半期段階での売上は13百万円に過ぎませんでした。

「モダリス」は、このような進捗率で上場審査をなぜクリアできたのか、またその後どうだったのかを次で紹介します。

モダリスの事業計画達成進捗率

「モダリス」は、バイオの会社であり、主な収益源がパイプラインのライセンスアウト時の契約⼀時⾦や、開発進捗に伴うマイルストン収⼊及びロイヤルティ収⼊(以下「同社収益」といいます)になっています。

「モダリス」の売上計画が第1四半期で1.2%に過ぎなかったにも関わらず、上場審査をクリアできたのかと言いますと、「モダリス」のプレスリリースによれば、同社収益に結び付く契約がメガファーマを含め国内外の製薬会社との間で飛躍的に伸びることを目論んでいたようです。

しかし思惑が外れ、1,100百万円以上を見込んでいた売上高が342百万円しか計上出来ませんでした。さらに翌期の売上高は、年間でたった1百万円という有様です。

上場直後、株価は4千円台をつけていましたが、本ブログを作成している段階では3百円台に推移しています。

完全な問題児になっています(証券会社の担当者は、社内で火だるまになったと思われます)。

第1四半期での売上高が年度計画の10%を満たないような状況でIPOを達成した会社は、2019年以降、モダリスしかありません。

しかし、「モダリス」のような悪い事例が現れた以上、今後、第1四半期での売上高が年度計画の10%を満たないような状況でのIPOは、ハードルが相当高くなってしまったと予想します。

営業利益の事業計画達成進捗率

23社の申請期の第1四半期での営業利益実績と申請期の営業利益の事業計画をざっくりと分類すると、次の表のようになりました。

表2 2019年以降にIPO達成した会社の内、第1四半期財務諸表提出会社の第1四半期営業利益の進捗

第1四半期営業利益 年度計画営業利益 社数 進捗率平均
黒字 黒字 18 32%
黒字 赤字 0
赤字 黒字 2
赤字 赤字 3

ほとんどの場合は、第1四半期の段階で黒字であり、その黒字額を第2四半期以降も継続させ、黒字額をさらに拡大するという計画になっています。

なかでも「ココナラ」は、第1四半期段階で既に進捗率が90%を超えており、結果的にはやはり事業計画を上回る営業利益獲得に成功しました。

一方、営業利益の進捗率が最も低かった会社は、「雪国まいたけ」でした。雪国まいたけの収益は、季節変動があり、第1四半期は低い事が大きな理由です。

第1四半期赤字だった会社が第2四半期以降の業績で黒字転換するという計画でIPOを達成した会社は、「モダリス」と「KIYOラーニング」の2社のみです。

「モダリス」は、前述のとおり、計画が大きく外れ、黒字転換が叶いませんでした。しかし「KIYOラーニング」は、見事黒字化を達成し、当初の計画を上回る業績を獲得しました。

第2四半期財務諸表提出会社の事業計画達成進捗率

上場時の有価証券届出書に第2四半期財務諸表が記載されていた会社は、113社ありました。

単純に考えると売上高のラップを年度経営計画の50%以上刻んでいれば、良好と思われます。

売上高の事業計画達成進捗率

113社の売上高について、申請期の第2四半期実績と経営計画を比較した表を表3に示します。

表3 2019年以降にIPO達成した会社の内、第2四半期財務諸表提出会社の第2四半期売上高の進捗

進捗率平均 49.1%
進捗率中央値 48.7%
最低進捗率 33.8%(Finatextホールディングス)

売上高の進捗率が30%台は、3社(Finatextホールディングス、QDレーザ、Institution for a Global Society)でした。

この3社の申請期の売上実績については、「モダリス」のような問題は無かったように思えます。

したがいまして、申請期の第2四半期の売上が年度計画比30%台であったとしても、将来の収益獲得見込みの説明が出来れば、今後も上場承認が可能であると考えます。

しかし一方、もし20%台以下の進捗率であれば、上場時期の延期を通達されることになるかもしれません。

営業利益の事業計画達成進捗率

113社の申請期の第2四半期での営業利益実績と申請期の営業利益の事業計画をざっくりと分類すると、次の表のようになりました。

表4 2019年以降にIPO達成した会社の内、第2四半期財務諸表提出会社の第2四半期営業利益の進捗

第2四半期営業利益 年度計画営業利益 社数 進捗率平均
黒字 黒字 103 65.0%
黒字 赤字 2
赤字 黒字 1
赤字 赤字 7

ほとんどの会社は、上半期の黒字額をさらに下半期も増やすという計画を立てた会社が多くなっています。

中には、上半期は、黒字であったものの、下半期に経費が急増する影響により赤字となり、通期で赤字になる計画を立てた会社が2社ありました。

その2社は、JTOWERとセーフィーになります。両社とも売上のピッチが落ちるために赤字になる計画ではなく、下期の経費が増大するために赤字になるという計画になっています。

しかし両社の申請期の業績は、結果的に計画よりも良好な結果で終わりました。

また、ワンダープラネット、Waqoo、ジオコード、I-neの4社の第2四半期の営業利益は、年度計画の営業利益と比較すると20%台(最低がワンダープラネットの28.3%)です。

もし、申請期における第2四半期時点での営業利益が年度営業利益より25%を下回るような事になっていれば、上場時期の延期・上場審査延長を含めた議論に発展するかもしれません。

第3四半期財務諸表提出会社の事業計画達成進捗率

上場時の有価証券届出書に第3四半期財務諸表が記載されていた会社は、207社ありました。

しかしこの会社の中には、期越え上場が存在します。

したがいまして、207社の中には、第3四半期の業績と年度計画の比較ではなく、第3四半期の業績と年度実績の比較が含まれます。

売上高の事業計画達成進捗率

207社の売上高について、申請期の第3四半期実績と経営計画を比較した表を表5に示します。

表5 2019年以降にIPO達成した会社の内、第3四半期財務諸表提出会社の第3四半期売上高の進捗

進捗率平均 73.5%
進捗率中央値 73.5%
最低進捗率 13.1%(クリングルファーマ)

最低進捗率であったクリングルファーマは、バイオの会社です。13.1%になっておりますが、年度実績との比較になっておりまして、経営計画との比較ではありません。

経営計画との比較で最低進捗率の会社は、オンデック(47.7%)であり、その次はドラフト(54.9%)でした。

しかし両社の売上業績は、経営計画より上回っていました。

営業利益の事業計画達成進捗率

207社の申請期の第3四半期での営業利益実績と申請期の営業利益の事業計画(期越え上場の会社の場合は、年度業績)をざっくりと分類すると、次の表のようになりました。

表6 2019年以降にIPO達成した会社の内、第3四半期財務諸表提出会社の第3四半期営業利益の進捗

第3四半期営業利益 年度計画営業利益 社数 進捗率平均
黒字 黒字 186 84.4%
黒字 赤字 3
赤字 黒字 2
赤字 赤字 16

ほとんどの会社は、黒字をさらに伸ばすという計画を持っている会社でした。しかし中には、第4四半期に費用計上額が影響により、黒字が縮小、または赤字に転落するという会社も存在しました。

この時期に上場する会社は、進捗率平均が84.4%という数字からもわかる通り、全体的に進捗率が非常に高い会社が多く、100%を超えているような会社も存在します。

第3四半期での営業利益の進捗率が20%を満たない、つまり第4四半期に年間営業利益のほとんどを稼いだ会社は、期越え上場ばかりでした。

まとめ

上場達成企業の有価証券届出書提出時点における申請期の業績状況と申請期の事業計画を比較して、業績の進捗率を考察してみました。

上場達成会社の過半数が第3四半期の財務諸表を記載しているという事実から、申請期の予算進捗率に対して、慎重になっていることがわかります。

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