マザーズへ上場している株式会社モダリスは、2021年10月20日に「当社主要株主の株式売却について」というプレスリリースを提出しました。
このプレスリリースは、元社外取締役かつ主要株主がモダリスの社内規程を反故して、自社株式を売却した事実が発覚したという内容のものです。
こちらになります。
ここでは、このプレスリリースの内容について説明させていただきます。
モダリスのプレスリリース
このプレスリリースの概要は、次のとおりです。
- 元社外取締役の濡⽊理⽒が、自社株式を売却した。
- 役員が退任、また従業員が退職しても、その後 1 年以内は、モダリスの規程(インサイダー取引の管理等に関する規程)を遵守しなければいけないが、濡⽊理⽒は、この規程を反故して、自社株式を売却した。
実は、モダリスは、自社株式売却について、以前にも違反がありました。
↓に説明していますので、ご参照ください。
退職者に対するインサイダー取引規制
なぜモダリスが、元社外取締役の濡⽊理⽒による自社株式売却をブチ怒り、開示したのでしょうか?
それはまず、金融商品取引法第166条第1項柱書に、会社関係者でなくなった後も1年間はインサイダー取引規制の対象となると定められているためです。
つまり、役職員在任当時に知った重要事実が未公表の場合、退職後1年間は勤務先だった会社の株式を売買するとインサイダー取引に該当することが法令で定められているということになります。
この法令を少し詳しく説明させていただきますと、例えばM&Aをはじめとするインサイダー情報を知ったまま退職退任したとします。
退職退任してしまった人は、通常、もはやインサイダー情報の進捗状況を知る術がありません。
つまり、インサイダー情報を知ったまま退職した人は、いつまで経っても株式の売買が出来ないという事になります。
そのような人に対する救済措置として、退職退任から1年以上経つと、在職在任時に知っていたインサイダー情報は陳腐化した情報であると見做され、ようやく解放されるという策が金商法に存在するということになります。
モダリス元社外取締役の濡⽊理⽒の場合、2021年3⽉30⽇に退任しました。
したがいまして、2022年3月30日までの1年間、濡⽊理⽒はインサイダー取引規制の対象になります。
もしモダリスが2022年3月末日までにM&Aを含む重要な情報が開示され、その内容が濡⽊理⽒の退任前から検討されていた場合、濡⽊理⽒にとりまして、非常に厄介なことになる可能性があるということになります。
「退職者に対するインサイダー規制」の対応
モダリスは、2件も自社株式の売買について、残念なことがありました。
しかし、これらはモダリスという会社に問題があったのではなく、規則を守れなかった個人の資質の問題だと思います。
上場会社、もしくは上場を目指す会社は、モダリスのようなことを起こさないため、または違反の有無を把握するため、主に以下のような3つの対応をすることになります。
証券口座に勤務先を登録させる
退職者に対してではなく、在職中の段階から、役職員に対し、証券口座の口座情報に勤務先の登録を促すことから始めることになります。
証券口座の口座情報に勤務先を登録すると、自社株式の売買時、証券会社の職員がインサイダー取引の有無を確認するためです。
主幹事証券会社の営業担当者に相談し、社内で一斉に証券口座の開設を行うことが出来れば、効率的です。
さらに、役員に対しては、J-IRISSへの登録を求められています。
J-IRISSについては、↓で紹介しています。ご参考下さい。
インサイダー取引防止規程を作成し、運用する
全ての上場会社には、間違いなくインサイダー取引防止規程が存在します。
上場を目指す会社は通常、公開会社になる直前にインサイダー取引防止規程を制定して、運用を行うことになります。
モダリスの規程には、決算開⽰前の期間における株式売却禁⽌を含んだ株式売却可能スケジュール、また確認手続が定められているようです。
インサイダー取引防止規程は、主幹事証券会社へ、ひな型の提供をリクエストして作成することが一般的のようです。
なお、モダリスのプレスリリースによると、濡⽊理⽒は当初、このスケジュールと確認手続を遵守していたようですが、2021年9 ⽉27⽇以降、急にその手続を行わなくなったこともあり、開示した模様です。
株主名簿と大量保有報告書を確認する
上場後、基準日ごとに株主名簿管理人から株主名簿が送られてきます。
株主名簿と大量保有報告書を確認すると、会社関係者による自社株式の売買状況を一定レベル確認することが出来るようになります。
なお、モダリスの場合、大量保有報告書を確認することによって、濡⽊理⽒がモダリスの規程を違反した事実を把握することが出来ました。
まとめ
このような事態を未然に防止するためには、啓蒙活動しか無いと思われます。
役職員が退職した時、会社が証券会社へ報告して、物理的にロックすることが出来れば、最も安心できますが、ブログの中の人は、そのサービスを行っている証券会社を知りません。
会社関係者が自社株式を売買しようとする都度、事前に証券会社が発行会社へ確認を求めるプロセスがあれば、安心感が高まると思われますが。。。