このブログをお読みになる方であれば、親会社や子会社という用語くらいご存じだと思います。
しかし、間違った解釈をしていらっしゃる方がちょくちょくいらっしゃいます。
ここでは、親会社と子会社の定義について説明します。
会社とは
会社法第2条に、会社の定義がされています。会社法では、会社の定義として以下に限定されています。
- 株式会社
- 合名会社
- 合資会社
- 合同会社
「僕のお父ちゃん、会社員」と言っても、もし勤務先が上の4つ以外であれば、会社員と言えない事になりそうです。
親会社・子会社の定義
親会社と子会社についての定義は、以下のとおりになります。
親会社の定義
会社法での親会社の定義、会計での親会社での定義は以下のとおりになります。
表1 親会社の定義
親会社の定義 | ||
---|---|---|
会社法 | 株式会社を子会社とする会社その他の当該株式会社の経営を支配している法人として法務省令で定めるもの
⇒ 「子会社の経営を支配している法人」 |
会社法2条4号、会社法施行規則3条2項 |
会計 | 「他の企業」の財務及び営業又は事業の方針を決定する機関を支配している企業(1) | 連結財務諸表に関する会計基準 |
子会社の定義
会社法での子会社の定義、会計での子会社での定義は以下のとおりになります。
表2 子会社の定義
子会社の定義 | ||
---|---|---|
会社法 | 会社がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の当該会社がその経営を支配している法人として法務省令で定めるもの
⇒「親会社がその経営を支配している法人」 |
会社法2条3号、会社法施行規則3条1項 |
会計 | 表1(1)の当該「他の企業」 | 連結財務諸表に関する会計基準 |
会社法では、会社は「株式会社・合名会社・合資会社・合同会社」に限定されていますが、子会社や親会社は限定されていないようです。面倒ですね。
会社法と会計の違い
表1と表2を一読するだけでは、会社法と会計での親会社・子会社の違いは、あまり無いように見受けます。
会社法では「法人」であり、会計では「企業」になっています。
そこで「企業」とは以下のとおりになっています。
子会社又は関連会社の範囲に含まれる企業とは、会社及び会社に準ずる事業体をいい、会社、組合その他これらに準ずる事業体(外国におけるこれらに相当するものを含む。)を指すとしている。~(中略)~投資法人、投資事業組合、海外における同様の事業を営む事業体、パートナーシップその他これらに準ずる事業体で営利を目的とする事業体が該当するものと考えられる。
(出所:連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する適用指針より)
会社法での子会社親会社は、「~支配している法人として法務省令で定めるもの」と書いている事から、法人が条件になっていますが、会計での親会社・子会社は法人に限定されていない事がわかります。
会計における親会社・子会社の範囲は、会社法で考える親会社・子会社よりも広いと思われます。
なお、子会社が「会社」以外であった事例、つまり株式会社、合名会社、合資会社、合同会社以外の法人が子会社となってIPOした事例は、2019年1月以降のIPOで1件だけ見つけました。↓になります。
親会社・子会社の定義にある「支配」とは
会社法も会計も「支配」が大きなキーワードになっています。
そこで「支配」について調べてみましょう。
調べてみると、3つのグループに分かれているようです。
50%超の議決権を保有する会社がある条件
まずは、議決権が50%超であるかどうかで変わります。
↓のとおりになります。
表3 50%超の議決権に係る親会社・子会社の決定
親会社・子会社 | |
---|---|
会社法 | 議決権を50%超持つ「法人」が親会社(持たれる法人が子会社) |
会計 | 議決権を50%超持つ「会社に準ずる事業体」が親会社(持たれる会社に準ずる事業体が子会社) |
議決権が50%超(あくまでも「超」であり、「以上」ではありません)であれば、一発で決定ですね。
40%以上50%以下の議決権を保有している会社がある場合
親会社・子会社は議決権が過半数かどうかだけで決定されません。
過半数でなくても、会社法でも会計でも親会社・子会社に扱われてしまいます。
議決権が40%以上50%以下の場合、親会社・子会社の判定において会社法と会計でどのように表記されているかを表4で示します(あえて、ほぼ原文にしています)。
表4 40%以上50%以下の議決権に係る親会社・子会社の決定
会社法(会社法施行規則3条3項) | 会計(連結財務諸表に関する会計基準) | |
---|---|---|
① | 他の会社等の議決権の総数に対する自己所有等議決権数(次に掲げる議決権の数の合計数をいう。次号において同じ。)の割合が50%を超えていること。
|
自己の計算において所有している議決権と、自己と出資、人事、資金、技術、取引等において緊密な関係があることにより自己の意思と同一の内容の議決権を行使すると認められる者及び自己の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意している者が所有している議決権とを合わせて、他の企業の議決権の過半数を占めていること |
② | 他の会社等の取締役会その他これに準ずる機関の構成員の総数に対する次に掲げる者(当該他の会社等の財務及び事業の方針の決定に関して影響を与えることができるものに限る。)の数の割合が50/100を超えていること。
|
役員若しくは使用人である者、又はこれらであった者で自己が他の企業の財務及び営業又は事業の方針の決定に関して影響を与えることができる者が、当該他の企業の取締役会その他これに準ずる機関の構成員の過半数を占めていること |
③ | 自己が他の会社等の重要な財務及び事業の方針の決定を支配する契約等が存在すること | 他の企業の重要な財務及び営業又は事業の方針の決定を支配する契約等が存在すること |
④ | 他の会社等の資金調達額(貸借対照表の負債の部に計上されているものに限る。)の総額に対する自己が行う融資(債務の保証及び担保の提供を含む。ニにおいて同じ。)の額(自己と出資、人事、資金、技術、取引等において緊密な関係のある者が行う融資の額を含む。)の割合が50/100を超えていること | 他の企業の資金調達額(貸借対照表の負債の部に計上されているもの)の総額の過半について融資(債務の保証及び担保の提供を含む。以下同じ。)を行っていること(自己と出資、人事、資金、技術、取引等において緊密な関係のある者が行う融資の額を合わせて資金調達額の総額の過半となる場合を含む。) |
⑤ | その他自己が他の会社等の財務及び事業の方針の決定を支配していることが推測される事実が存在すること | その他他の企業の意思決定機関を支配していることが推測される事実が存在すること |
表1と表2にある「法務省令」というのは会社法施行規則3条3項に該当します。
会社法も会計も同じ解釈のように思えます。
40%未満の議決権(ゼロも含む)でも
40%未満の議決権、つまり議決権がゼロでも親会社・子会社が生まれてしまう可能性があります。
それは、表4の①と②~⑤のいずれかが該当する場合です。
議決権ゼロの子会社の事例
サムティ株式会社(東証プライム市場 3244)は、出資していない会社に対し、経営に対する影響が大きく子会社に該当するのではという疑念が生じました。
そのきっかけは、取引先の印鑑を社長が預かっていたという事のようです。
そして調査委員会を立ち上げ、その委員会の結論は「子会社に該当する可能性が高いと思料」となりました。
特別委員会の調査報告書は、こちらになります。
連結対象から除外される子会社
以下のような子会社は、連結対象から除外される子会社になります。
- 支配が一時的であると認められる企業
- 1.以外の企業であって、連結することにより利害関係者の判断を著しく誤らせるおそれのある企業
- 資産、売上高等を考慮して、連結の範囲から除いても企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する合理的な判断を妨げない程度に重要性の乏しい企業
あくまでも財務諸表の連結対象から外れる、または外すことができる子会社であり、審査対象から外れるという事ではない点に注意が必要になります。
連結対象から外れた子会社でも出資経緯や設立経緯、業績、申請会社との取引状況等をⅡの部で記載することになります。
「記載すべき子会社」とは
Ⅱの部には、子会社の中で「記載すべき子会社」という用語が存在します。
記載すべき子会社とは、ざっくり言いますと、上場審査において、その他の子会社よりも情報提供を求められる子会社になります。
「記載すべき子会社」とは
直前期または申請期の予算(正確には「今後の経営成績の見通し」)において、↓の算出式で20%以上となる子会社、または子会社化を予定する会社のことを「記載すべき子会社」といいます。
(算出式)
(子会社の連結財務諸表における総資産額(純資産の額、売上高、利益の額)/(申請会社の連結財務諸表における総資産額(純資産の額、売上高、利益の額)
「記載すべき子会社」に対する質問事項
純資産や売上、利益の額が連結での値から20%以上になる子会社に対して、Ⅱの部では表5のような内容について情報提供を求めています。
表5 「記載すべき子会社」に求められる主な情報
求められる情報 | |
---|---|
販売に関する事項 |
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組織図 |
|
貸借対照表明細 |
|
製造原価明細表 |
|
会計方針及び会計処理等 |
|
親会社・子会社の類似用語
↓で説明しています。ご参考ください。