上場準備会社にとって、「収益認識に関する会計基準」の適用というのは、非常に頭を悩ませる会計基準です。

↓で簡単にまとめています。ぜひご参考下さい。

「収益認識に関する会計基準の改正」をまとめました

ここでは、会計基準の変更に関する上場会社の開示事例をいくつかピックアップし、影響の度合いについて紹介させていただきます。

上場を目指している会社関係者の経営者や実務担当者の皆様が「悩んでいるのは、僕だけじゃない!」と考えていただければ幸甚です。

住友林業株式会社の「収益認識に関する会計基準」の影響

大手住宅メーカーである住友林業株式会社は、「収益認識に関する会計基準」を2020年3月期から早期適用しています。

住友林業株式会社は、2020年3月期決算短信において、「収益認識に関する会計基準」を表1のように説明しています。

表1 住友林業株式会社の収益認識の考え方の概要

変更前 変更後
代理人取引に係る収益認識 顧客から受け取る対価の総額 顧客から受け取る額から商品の仕入先に支払う額を控除した純額
工事契約に係る収益認識 進捗部分について成果の確実性が認められる工事:工事進行基準

工期がごく短い工事:工事完成基準

原則:履行義務の進捗率(主に発生原価に基づいて進捗率を見積)に比例して、一定期間にわたり収益認識(インプット法)

履行義務の結果を測定できない工事:実際原価の範囲でのみ収益認識し、少額工事は履行義務の充足時点で収益認識

保証サービスに係る収益認識 収益を認識せず 収益を認識

住友林業株式会社の会計基準の変更による影響を表2にまとめました。

表2 住友林業株式会社の収益認識の変更による主な影響(2020年3月期)

決算 会計基準の影響 インパクト
売上 1,104,094百万円 240,302百万円減 21%
原価 861,405百万円 245,901百万円減 28%
営業利益 51,377百万円 5,599百万円増 10%
経常利益 58,824百万円 5,599百万円増 9%
税金等調整前当期純利益 55,118百万円 5,599百万円増 10%

住友林業株式会社を参考にすべき点は、「保証サービスに係る収益認識」であると考えます。

新築住宅には、保証期間があるため、保証サービスに係る収益の割合を高く見積もっているのではと推測します。

ピジョン株式会社の「収益認識に関する会計基準」の影響

哺乳瓶などの育児用品メーカーのピジョン株式会社は、2021年12月期から早期適用しています。

ピジョン株式会社は、第1四半期報告書で「収益認識に関する会計基準」を表3のように説明しています。

表3 ピジョン株式会社の収益認識の考え方の概要

変更前 変更後
販売促進費等の一部、売上割引 販売費及び一般管理費に計上 売上高から減額
返品調整引当金 売上総利益相当額に基づいて流動負債に計上 返金負債:流動負債の「その他」に含めて表示

返品資産:流動資産の「その他」に含めて表示

表4 ピジョン株式会社の収益認識の変更による主な影響(2021年12月期第1四半期)

決算 会計基準の影響 インパクト
売上 21,359百万円 1,015百万円減 4%
原価 11,190百万円 12百万円減 0%
売上総利益 10,168百万円 1,002百万円減 9%
販売費及び一般管理費 7,307百万円 928百万円減 12%
営業利益 2,861百万円 74百万円減 2%
経常利益及び税金等調整前四半期純利益 なし 0%

株式会社三越伊勢丹ホールディングスの「収益認識に関する会計基準」の影響

百貨店業界は、「収益認識に関する会計基準」の影響が最も大きな業界とも言われています。

百貨店業界の代表格である三越伊勢丹ホールディングスは、2022年3月期から「収益認識に関する会計基準」を適用しますが、2021年3月期決算短信において、表5および表6のような影響があると発表しています。

表5 株式会社三越伊勢丹ホールディングスの収益認識の考え方の概要

変更前 変更後
消化仕入等の代理人取引に該当する売上高 総額を計上 純額を計上

表6 株式会社三越伊勢丹ホールディングスの収益認識の変更による主な影響(2022年12月期決算予想)

決算予想 会計基準の影響 インパクト
売上 447,000百万円 518,000百万円減 115%

株式会社三越伊勢丹ホールディングスは、「収益認識に関する会計基準」の影響により、売上高が半分以下になるようです。

しかし利益面に関しては、影響がない模様です。

会計

株式会社荏原製作所の「収益認識に関する会計基準」の影響

ポンプの総合メーカーである株式会社荏原製作所は、「収益認識に関する会計基準」を2020年12月期から早期適用しています。

株式会社荏原製作所は、2020年12月期の有価証券報告書で表7と表8のように説明しています。

表7 株式会社荏原製作所の収益認識の考え方の概要

変更前 変更後
工事契約 進捗部分について成果の確実性が認められる工事:工事進行基準

その他の工事:工事完成基準

原則:履行義務の進捗率(主に発生原価に基づいて進捗率を見積)に比例して、一定期間にわたり収益認識(インプット法)

履行義務の結果を測定できない工事:実際原価の範囲でのみ収益認識し、少額工事は履行義務の充足時点で収益認識

精密・電子事業 客先での設置完了時点で収益認識 客先での設置完了後の性能確認が完了時点で収益認識

表8 株式会社荏原製作所の収益認識の変更による主な影響(2020年12月期)

決算 会計基準の影響 インパクト
売上 523,727百万円 4,805百万円増 0%
原価 379,087百万円 2,895百万円増 0%
売上総利益 144,639百万円 1,910百万円増 1%
販売費及び一般管理費 106,760百万円 516百万円減 0%
営業利益 37,879百万円 2,425百万円増 6%
経常利益 36,859百万円 2,425百万円増 6%
税金等調整前当期純利益 36,045百万円 2,425百万円増 6%

小林製薬株式会社の「収益認識に関する会計基準」の影響

トイレタリーや化粧品などの家庭用品を製造販売している小林製薬株式会社は、「収益認識に関する会計基準」を2020年12月期から早期適用しています。

小林製薬株式会社は、2020年12月期の有価証券報告書で表9と表10のように説明しています。

表9 小林製薬株式会社の収益認識の考え方の概要

変更前 変更後
返品調整引当金 流動負債に計上 返金負債:流動負債の「その他」に含めて表示

返品資産:流動資産の「その他」に含めて表示

販売促進費と広告宣伝費の一部 販売費及び一般管理費に計上 売上高より控除
売上割引 営業外費用に計上 売上高より控除
運賃保管料の一部 販売費及び一般管理費に計上 売上原価に計上

表10 小林製薬株式会社の収益認識の変更による主な影響(2020年12月期)

決算 会計基準の影響 インパクト
売上 150,514百万円 9,712百万円減 6%
原価 65,248百万円 2,658百万円増 4%
売上総利益 85,265百万円 12,370百万円減 14%
販売費及び一般管理費 59,322百万円 11,674百万円減 19%
営業利益 25,943百万円 697百万円減 2%
経常利益 27,726百万円 0 0%
税金等調整前当期純利益 26,635百万円 0 0%

あすか製薬株式会社の「収益認識に関する会計基準」の影響

医薬品メーカーのあすか製薬株式会社は、「収益認識に関する会計基準」を2020年3月期から早期適用しています。

あすか製薬株式会社は、2020年3月期の有価証券報告書で表11と表12のように説明しています。

表11 あすか製薬株式会社の収益認識の考え方の概要

変更前 変更後
販売先に対する売上 当社が販売先に製商品が引き渡された時点で収益認識 販売先から特約店に製商品が引き渡された時点で収益認識
販売奨励金等の特約店に支払われる対価 販売費及び一般管理費として処理 取引価格から減額
返品権つきの販売 売上総利益相当額に基づき返品調整引当金を計上 予想される返品部分に関しては、変動対価に関する定めに従って、販売時に収益を認識しない

表12 あすか製薬株式会社の収益認識の変更による主な影響(2020年3月期)

決算 会計基準の影響 インパクト
売上 52,542百万円 5,070百万円増 9%
原価 28,525百万円 32百万円増 0%
売上総利益 24,016百万円 5,037百万円増 20%
販売費及び一般管理費 22,509百万円 4,851百万円増 21%
営業利益 1,507百万円 186百万円増 12%
経常利益 1,715百万円 186百万円増 10%
税金等調整前当期純利益 901百万円 186百万円増 20%

あすか製薬の商流には、「あすか製薬」⇒「販売先」⇒「特約店」という流れがある模様です。

あすか製薬は、販売先に商品を引き渡した時点で売上を計上していましたが、販売先が特約店に商品を引き渡した時点で売上計上するということになりました。

したがいまして、あすか製薬は、販売先から、特約店への商品を引き渡しに関する報告を入手必要性が出るという業務フローが発生しました。

株式会社ブロンコビリーの「収益認識に関する会計基準」の影響

レストランを展開している株式会社ブロンコビリーは、2022年1月期の決算期から「収益認識に関する会計基準」を早期適用しています。

株式会社ブロンコビリーは、2022年1月期の第1四半期報告書で表13と表14のように説明しています。

表13 株式会社ブロンコビリーの収益認識の考え方の概要

変更前 変更後
クーポン又はポイント利用による売上 総額を収益として認識し、値引額を販売促進費として計上 純額で収益を認識
売上時に配布したクーポン及び付与したポイント 販売促進引当金に計上 契約負債を計上し、顧客がクーポン及びポイントを値引として使用したときに売上高に振り替え

表14 株式会社ブロンコビリーの収益認識の変更による主な影響(2022年1月期 第1四半期)

決算 会計基準の影響 インパクト
売上 3,495,628千円 399,230千円減 9%
販売費及び一般管理費 2,642,363千円 396,874千円減 21%
営業利益 △197,764千円 2,355千円減 12%
経常利益 256,573千円 2,355千円減 10%
税金等調整前四半期純利益 256,025千円 2,355千円減 20%

まとめ

ブログの中の人は、「収益認識に関する会計基準」を適用すれば、全ての会社の売上が下がり、業績が下がると考えていましたが、プラスになる会社もあり、予想外でした。

ここで取り上げた住友林業とあすか製薬は、この会計基準の導入によって、業務フローの一部が変わるものと推測できます。

特に住友林業の場合は、管理会計の見直し、さらに社内組織評価体系の検討にも影響が出たのではと推察します。

上場準備会社にとっても「収益認識に関する会計基準」の適用というのは、非常に頭を悩ませる会計基準ですが、頑張りましょう!