日経新聞をはじめとする経済紙で世界のユニコーン企業に関する記事があります。
たとえばこんな記事です。こちらです。
記事を読むと、だいたい「米国や中国をはじめとして海外には、ユニコーン企業がいっぱいあるけど、日本はショボいよね」という内容になっています。
日本がこうなってしまった理由は、いくつもあると思いますが、その理由のひとつに、「非上場株式の発行・流通市場が米国等と比較すると規模が小さすぎるからだ!」と言われています。
そして、その規模が小さくなっている要因として、「非上場株式の発行・流通を妨げる規制が多すぎるからじゃないの?」「非上場株式を買いたいと思っている人が投資できる場や環境が無いからだ!」などがあると言われています。
そこで日本証券業協会では、非上場株式取引制度の課題・改善策について検討するため、2020年11月17日、自主規制会議の下部機関として「非上場株式の発行・流通市場の活性化に関する検討懇談会」を設置しました。
そして6回にわたって話し合い、この度、その内容の報告書を公表しました。
こちらになります。
この報告書の内容は、将来の非上場会社の資本政策に影響を及ぼす可能性がある内容になると考え、このブログで取り上げました。
この報告書の重要な箇所を抜粋して、以下のようにまとめました。詳細は、原文をお読みくださいますようお願いします。
非上場株式の発行・流通市場の活性化の必要性
企業が成長するにあたって、株式上場ということは大きなターゲットになりますが、株式上場の時期は早ければ良いというものではありません。
株式上場をすれば、創業者が研究開発に没頭できなくなることや、短期で成果を求められやすくなるため、会社の事業内容等によっては企業の資金が続く限り、IPOは遅い方が良い会社もあるはずです。そこで非上場株式の発行・流通市場の活性化の必要性が求められています。
- 非上場企業に成長資金を供給するという観点では、負債による資金調達のみならず、株式等を通じて資金を供給することが重要である。
- 非上場株式の発行の際に利用できる制度としては、株主コミュニティ制度や株式投資型クラウドファンディング制度が存在するが、まだ十分な存在感を発揮するには至っていない。
- 非上場企業に対する成長資金の供給に向けて、非上場株式の発行市場を活性化することが求められる。
- 非上場企業に対する成長資金の円滑な供給に当たっては、資金調達のための発行制度を整備するだけでなく、発行した株式の流通を促進することが重要となる。
- 米国では、証券取引委員会(SEC)に登録せずに株式等を発行できる登録免除制度の規制緩和が進められるとともに、インターネット上で非上場株式を取引できるプラットフォームの設立が相次いでいる。
制度改革案
この懇談会では、発行者及び投資家のニーズ並びに仲介者として対応が期待される施策について、洗出しを行いました。
その洗い出された内容に基づいて、以下に掲げるような制度改善案が取りまとめられました。
特定投資家私募制度(日本版Regulation D)の整備
現在、特定投資家私募はTOKYO PRO Marketでしか利用できません。
そこで、非上場株式やファンド等でも特定投資家私募を利用可能とするような制度の整備や自主規制の緩和が提案されました。
米国では「Regulation D」という規定があります。
米国で有価証券の募集や販売を行う場合は、証券取引委員会に登録する必要がありますが、登録費用が高く、登録に時間もかかります。そこで「Regulation D」という規定を適用すると、その登録義務が免除され、コストや時間が削減できるようになります。アーリーステージでの資金調達を考えている事業会社やベンチャーキャピタルが資金調達に利用されているそうです。
特定投資家私募制度(日本版Regulation D)について、次のような施策案が出されました。
- 特定投資家私募における特定証券情報の整備
- 特定投資家向け取得勧誘、特定投資家向け売付け勧誘等及び既存株主による売付けに係る投資勧誘の解禁
- 特定投資家向け投資勧誘を行う証券会社等について、本協会が内部管理体制等を確認し、取扱証券会社として指定
- 取扱証券会社に対し、発行会社に対する審査を義務付け
なお、特定投資家の定義につきましては↓で説明しています。ご参考ください。
私募についての定義は、↓で説明しています。ご参考ください。
株式投資型クラウドファンディング制度の改善
最近、インターネットを使って、多くの人から資金を調達する手法(クラウドファンディング)が増えてきています。
しかしクラウドファンディングについても規制がありまして、その規制の撤廃または緩和が提案されています。
- 投資家の投資上限額(50万円)について、特定投資家の投資上限額の見直し
- 株式投資型クラウドファンディング単体で年間1億円調達可能とするための発行総額の算定方法の見直し
- 少人数私募の人数通算期間の短縮(6か月→3か月)
株主コミュニティ制度の改善
株主コミュニティ制度とは、地域に根差した非上場の企業等の株式を売買したり、その株式の発行により資金を集める仕組みです。
くわしくは、日本証券業協会のサイト(こちらになります)をご覧ください。
株主コミュニティ制度については、これまでは「企業をよく知る者」を中心とした取引を想定した制度設計ですが、これを改善する提案がされました。
- 特定投資家を参加勧誘対象者とする
- 株主コミュニティ銘柄の会社関係者等は株主コミュニティへの参加を取引の条件として投資勧誘を可能とする
- 既存株主による売付けに係る投資勧誘は株主コミュニティに参加していなくとも可能とする
- 有価証券報告書等で企業内容を開示している銘柄における参加勧誘対象者の拡大
店頭取扱有価証券に係る譲渡禁止期間の見直し
日本証券業協会が定めた「店頭有価証券に関する規則」の第6条第2項において、「有価証券報告書等提出会社が発行する非上場株式等の募集等の取扱い等」について、取得後2年間の譲渡禁止が定められています。
このような規則は、撤廃すべきと提案されました。
まとめ
この検討会は、日本証券業協会が証券会社等の利益のために勝手に始めたのではなく、政府の成長戦略及び規制改革実施計画等において、非上場企業の資金調達の円滑化と手段の多様化に向けた検討が行われることになったことを受けて、発足したようです。
非上場会社の資金調達手段の幅が広くなればいいですね。