
公正取引委員会は、IPO時の公開価格を設定する際、優位な立場にある証券会社が一方的に低く設定する行為が多くみられると問題視しています。
公正取引委員会は、過去1年間にIPOした会社、主幹事証券の実績がある証券会社、東証に書面やヒアリングを行い、「新規株式公開(IPO)における公開価格設定プロセス等に関する実態把握について(以下「公表文」といいます)」を公表しました。
本文はこちらになります。
なお、現在、証券業界と公正取引委員会との間で攻防戦が繰り広げられておりまして、日本証券業協会は、ワーキンググループを作って検討しています。↓で説明しています。
この公表文の内容について、まとめてみました。
スタートアップ企業の経営者の方々のご参考になれば、幸甚です。
収益率を公表すべし!
公正取引委員会は、上場を目指す会社が、主幹事証券会社を選定する際の参考指標として、公開価格の設定に関する情報を一覧で公表されるべきだとしています。
そこで、日本証券業協会が平均初期収益率と初期収益率を公表すべきとしています。
なお、平均初期収益率と平均収益率は、↓のとおりです。
初期収益率 :初値が公開価格から、どれくらい乖離しているのかを示す指標
初期収益率=(初値−公開価格)/公開価格
平均初期収益率:一定期間における,証券会社ごとの発行規模別の初期収益率の平均値
初期収益率や平均初期収益率が高い証券会社は、公開価格を安価に設定した証券会社であると、市場から判断される可能性があるということになります。
プレヒアリングを実施すべし!
公正取引委員会は、プレヒアリングを実施すべきと言っています。
つまり公正取引委員会は、ブックビルディングのプロセスを変えるべきと言っています。
ブックビルディングについては、↓で説明しています。
プレヒアリングとは、上場承認前、細かく言えば有価証券届出書の完成前に、機関投資家に対して行う、当該株式等に係る需要見込み調査です。
現在のブックビルディングでは表向き、プレヒアリングを実施していません。
日本証券業協会による用語説明は、こちらになります。
公正取引委員会は、日本証券業協会において,プレヒアリングが法令等で禁止されていないことを明確化し,証券会社はプレヒアリングを行って想定発行価格を設定することを提言しています。
IPOディスカウントの考え方を説明しろ!
経営者は、折角苦労して上場承認を受ける目途が立ったにも関わらず、IPOディスカウントの説明を受けると、納得できずに感情的になってしまう経営者が存在します。
IPOディスカウントについては↓で説明しています。
公正取引委員会は、想定発行価格の設定におきまして,主幹事証券会社がIPOディスカウントを加味する場合,合理的な根拠を説明して,新規上場会社が十分に納得した上で想定発行価格を設定すべきであると提言しています。
ロードショーの結果とプロセスを透明にせよ!
ロードショーとは、ブックビルディングの中で大きな位置を占めるプロセスです。
ロードショーは↓で説明しています。
IPO株の需要を正確に反映した仮条件の設定を可能にするため,公正取引委員会は、主幹事証券会社が機関投資家から適切なフィードバックを受け,機関投資家の同意を得た場合には,ロードショーの結果について,機関投資家を顕名で新規上場会社に開示すべきであると提言しています。
さらに公正取引委員会は、新規上場会社がロードショーにおけるヒアリング先を選択できるよう,新規上場会社に対し,当該新規上場会社のロードショーに関心のある機関投資家のリストを事前に提供することなどにより,ロードショーにおけるヒアリング先の候補となる機関投資家について説明を行うべきであると提言しています。
仮条件は、ロードショーの結果を踏まえた幅を設定しろ!
公正取引委員会は、主幹事証券会社が仮条件価格帯の幅の大きさについて,硬直的で狭い幅の基準を設けず,より需要に見合った仮条件価格帯の幅を設定すべきであると提言しています。
仮条件とは↓で説明しています。ご参考ください。
仮条件の幅については、ブログの中の人も気にしていました。
後日、仮条件の幅と初値の関係について、記事にしようと思います。
公開価格は、仮条件を上回る事が出来るようにしろ!
現在のブックビルディングでは、仮条件の範囲内で公開価格が決まることになります。
公正取引委員会は、仮条件の上限額を上回る公開価格の設定等について,主幹事証券会社がブックビルディングの結果を踏まえて,仮条件を訂正した上での公開価格の設定をより柔軟に行うこと出来るようにすべきと提言しています。
主幹事証券会社を変更しやすいようにしろ!
公正取引委員会は、新規上場会社が主幹事証券会社の変更をしやすいよう配慮すべきと提言しています。
さらにセカンドオピニオン的な意味合いからも、共同主幹事証券会社の追加をしやすいことを提言しています。
主幹事証券会社は、高い引受割合を新規上場会社の意に反して要請するな!
公正取引委員会は、主幹事証券会社以外に高い引受割合を持つ共同主幹事証券会社を追加すると、セカンドオピニオン的な役割を期待できると考えています。
IPOAtoZでは、近い将来、主幹事証券会社の引受割合について、記事を作成しようと思います。
幅広い証券会社が主幹事を引き受けることができるようにしろ!
公正取引委員会は、主幹事証券会社を務める会社が増加すれば、IPOを目指す会社にとって、選択が拡がり、証券会社間の競争が促されると考えています。
ブックビルディング以外の上場方式を検討しろ!
長い間、株式上場はブックビルディング方式ばかりで上場しています。
公正取引委員会は、株式上場のプロセスを多様化すべきと考えています。
ブックビルディング以外の株式上場方法のひとつとして、ダイレクトリスティングがあります。
↓で説明しています。ご参考ください。
IPO に係る取引慣行における独占禁止法上の論点
↑で説明した内容の他、公正取引委員会は,以下のような行為が独占禁止法上問題となり得ると明言しました。
- 銀行やベンチャーキャピタルの影響力を行使することなどによる,新規上場会社への特定の証券会社を主幹事とすることの要請及び他の証券会社の主幹事引受けに係る不当な妨害
- 引受手数料の料率に関する証券会社間の情報交換等
- 交渉力の強い主幹事により,公開価格が一方的に設定されるなどして,新規上場会社に不当に不利益を与えること
まとめ
公正取引委員会が公表したIPOにおける公開価格設定プロセスについてまとめました。
ブログの中の人は、公正取引委員会の考えを理解できますが、この考えにより、かえってIPO市場が冷え込まないかが心配です。
野村證券等の大手証券会社は全て、中小規模のIPO主幹事から手を引くことになるかもしれません。