上場審査では、「企業内容等の開示の適正性(以下では「開示能力」といいます)」について審査を受けます。開示能力の審査は、Ⅰの部の内容の確認を通じて判断することが中心になります。
Ⅰの部には、「事例にとらわれず、自社で独自に工夫しているⅠの部」があれば、「事例のコピペに終始しており、工夫の跡が見えないⅠの部」もあります。
「事例にとらわれず、自社で独自に工夫しているⅠの部」を書いている会社は、開示能力の高さや開示に対する積極的な姿勢を持つ印象を受けます。一方、「事例のコピペに終始しており、工夫の跡が見えないⅠの部」を書いている会社は、開示能力の低さや消極性が伺える会社であるような印象を受けます。
審査を行う担当者は、過去のⅠの部を山のように見ているプロなので、どちらのⅠの部かは、短時間で判断できます。
カクヤスのⅠの部チェック
2019年12月23日に東証第2部に上場した株式会社カクヤスのⅠの部には、次のような記載があります。
出所 カクヤスⅠの部より
コーポレートガバナンスにある組織の構成員、また会議に誰が出席し、誰が議長になっているかがわかりやすく表現されています。
同様の事例は、何社か存在します。役員数が多い会社は、このような記載をしている事例が何社
開示能力に関する審査は、”開示に関する知識量や正確性”だけを審査するのではなく、”やる気”や”姿勢”といった知識以外のことを重要視します。
”開示に関する知識量や正確性”というものは、印刷会社やIPOコンサル等の外部サポートで補ったり、IPO直前に経験者を採用するといった力業で一定水準を獲得することが出来ます。
しかし開示に対するやる気や姿勢については、外部サポートだけで補えるものではありません。開示に関する知識量が十分であっても、開示に対するやる気や姿勢に疑念が出た場合、審査担当官の”嗅覚”に危険信号が発生し、審査は悪い方向へ流れが進んでしまいます。
カクヤスは、これだけではなく、例えば「上場の目的」という項目を独自に設定し、記載しています。
当社が上場を目指す目的は、独立的な資金調達能力の拡大による自己資本の充実、社会的信用度・知名度の向上、優秀な人材確保と従業員のモラルの向上であります。今後の企業の継続と発展のためには、資本市場における認められた存在として事業をさらに拡大するとともに、従業員がより安心して働ける企業でありたいと考えるためであります。
カクヤスのⅠの部は、「事例にとらわれず、自社で独自に工夫しているⅠの部」と評価でき、開示に対して積極的な姿勢、また高い開示能力を持つ会社として評価できるのではないでしょうか。