会社経営者が「上場したいなぁ」と考えたとき、最初に行う具体的なアクションがショートレビューです。

ショートレビューを通じて、株式上場の可能性や目標時期、大きな課題をザックリと探り、検討します。

ここでは、ショートレビューの内容やタイミング、コストのイメージなどについて説明します。

ショートレビューとは

ショートレビューとは、監査法人が1~2週間程度の短期間で、IPOを目指す会社がIPO実現に向けての課題を調査抽出し、課題の内容や改善方法、さらにIPOまでのスケジュール提案をするものです。

IPOを目指すにあたってのプロセスでは、ショートレビューは、最初に行う必須プロセスです。

ショートレビューでの主な検討課題は、次のとおりになります。

ショートレビューでの主な検討課題
  • 希望する上場目標時期の実現可能性
  • 希望する上場市場へ上場するための課題
  • 現状の経営管理体制・内部管理体制・会計管理体制の整備状況と、上場を実現するために必要な経営管理体制・内部管理体制・会計管理体制との比較及び課題
  • 関係会社・関連当事者等との取引状況検討等

ほとんどの会社経営者は、ショートレビューを通じて「エ~!!こんなにやらなきゃいけないの~???」という感想を抱きます。

ショートレビューを行うにあたっては、会計監査を行う監査法人へ業務依頼する会社が圧倒的多数になりますが、それ以外の会計事務所へ業務依頼するケースも存在します。

    ショートレビューのタイミング

    ショートレビューは早すぎると単なるコストの無駄で終わります。遅すぎるとIPO達成時期が遅くなります。

    いつまでにショートレビューを実施し、そしてそれまでにどのような準備が必要なのでしょうか?

    ショートレビューをいつ行うべきなのか?

    上場を達成するためには、上場直前々期以降における財務諸表に対し、監査法人による監査を受けることが条件になります。

    上場直前々期の財務諸表から監査を始めるということは、上場直前々期初のバランスシートをバッチリ仕上げることになります。

    上場直前々期初のバランスシートを仕上げるためには、上場直前々々期の会計から確認をする必要が出てきます。

    したがいまして、原則、上場直前々々期までにショートレビューを受ける必要があります。

    しかし、上場直前々期に受ける事例も多く存在します。

    2019年1月以降、本ブログ作成開始までの間に、IPO達成した会社(232社)の中で上場直前々期にショートレビューを受けた会社は、株式会社識学や24社(株式会社10.3%)でした(24社とは、各社のⅠの部に上場直前々期の「非監査業務に関する費用」として、ショートレビューを記載した会社の件数になります。IPOAtoZ調べ)

    上場直前々期にショートレビューを受けてIPOを達成した会社は、非常にスムーズに上場準備が出来た会社といって過言ではありません。

    ショートレビューを受けるタイミングの体制状況

    人と人の出会いにおいて、第一印象は非常に重要であることは、言うまでもありません。

    ショートレビューとは、監査法人から最初に受ける評価でありまして、ショートレビューの段階で、内部管理体制に不備があまりにも多すぎると、監査法人からの第一印象が悪くなり、最悪のケースでは監査難民に一直線です。

    つまり、早ければ良いということではありません。ショートレビューを受けるまでの準備内容については、こちらで紹介しています。ご参考下さい。

    「上場準備作業で最初にやること」とは【初期プロセス】

    ショートレビューの費用

    ショートレビューは、会社の規模や業種等によって監査法人担当者の作業工数が大きく異なります。

    もちろん、それは費用に影響します。

    2019年1月以降、本ブログ作成開始での間に、IPO達成した会社(232社)の中で上場直前々期にショートレビューの費用を開示していた会社は22社存在しました。その22社の状況は表1のとおりになりました。

    表1 ショートレビューの費用

    金額
    平均 163万円
    最高金額 700万円(株式会社ブシロード)
    最小金額 50万円(株式会社識学など)

    ※ IPOAtoZ調べ

    会社規模や業種等によって、その金額は大きく異なります。

    スケジュール

    ショートレビューの進め方

    ショートレビューは通常、表2のような手順で進められます。

    表2 ショートレビューの手順

    手順 内容
    1 事前打合せ 提出資料の確認、ショートレビュー日程調整等を実施する
    2 資料提出 中期経営計画、税務申告書、規程等、ショートレビューに必要な資料を提出する
    3 ヒアリング 主に社長や監査役、管理部門責任者・担当者がヒアリングを受ける
    4 報告書説明会
    • 報告資料内容の分析およびヒアリング内容の結果に基づき、会社の現状評価と課題抽出、およびIPOスケジュール提案を受ける報告書説明会が行われる。
    • 主にIPOに向けて、主にどのような改善事項があるのかの報告を受ける。

    最近、ブログの中が携わっている会社が受けたショートレビューは、表2の資料提出~報告書説明会までに約1カ月という期間でした。

    ショートレビューの内容

    ショートレビューで受ける主な調査項目は、表3のとおりになります。

    表3 ショートレビューの調査項目

    調査項目 改善要請内容
    1 上場の時期や市場選択
    1. 過年度の業績分析
    2. ビジネスモデルや市場環境
    3. 中期経営計画や年度経営計画との達成状況
    4. 株主の状況
    5. 資本政策、資金計画
    2 経営組織体制・内部管理体制の整備状況
    1.  経営組織体制の整備状況
      • 取締役会、監査役会、内部監査等
    2. 内部管理体制の整備状況
      • 販売管理体制、生産管理体制、購買管理体制、在庫管理体制、子会社管理体制、外注管理体制、固定資産管理体制等
    3. 予算統制の整備状況
      • 月次決算体制、予算管理体制等
    3 制度会計対応のための体制整備状況
    1. 収益認識の対応状況
      • 収益認識への対応
    2. 原価計算の整備状況
      • 原価計算システムの整備状況等
    3. 会計制度の整備状況
      • 税効果会計や引当金計上等の対応
    4 関係会社・関連当事者等の取引状況
    1. 関係会社の状況と取引関係
    2. 関連当事者等を抽出し、取引があれば、取引の妥当性や課題を指摘

    まとめ

    日本公認会計士協会が発行している「会計監査を受ける前に準備しておきたいポイント(こちらになります)」には、次のようなことが書かれています。

    「上場準備期間の監査や証券会社の引受審査は、単なる数字や形式のチェックではなく、経営者の資質、企業カルチャーも含めた企業経営の健全性、事業内容等を独立第三者の立場で検証し、将来にわたって投資家の期待に応えられる企業となるための土台を固める重要なプロセスであるとの理解の共有が重要である」とされています。また、監査法人は、会計監査を受嘱するに当たっての契約手続や会社の規模に見合った人員配置の準備など、ある程度の準備期間が必要な場合が多いため、上場準備会社が会計監査を依頼しても、受け入れられるかどうかは、そのときの状況によります。仮に受嘱に向けた課題があった場合にも、課題に対応できるよう、監査法人とのコミュニケーションを十分にとるとともに、上場スケジュールを考慮した上で、十分な余裕を持って依頼をすることが必要です。そのため、契約が締結されない場合でも、監査法人からその理由の説明を受けるなどして、何が課題とされたのかを確認するなど十分なコミュニケーションが重要です。その上で、アドバイザーや主幹事証券会社と相談の上、別の監査法人との契約も含めた対応策の検討が必要です。」(出所:日本公認会計士協会「会計監査を受ける前に準備しておきたいポイントより」