会社法には、一般の株主の株主総会への参加意欲を向上させるための措置の一つとして「株主提案権」が制度化されています。

一方、上場企業の宿命は、不特定多数の株主が存在する点があります。

株主の中には、会社の成長を応援することに興味が無く、配当や株式売却などで株主自身の経済的利益をどのように維持していくかを重要視する株主、または会社経営の足を引っ張ろうとする株主が出現するなど、必ずしも友好的な株主ばかりとは限らなくなります。

つまり上場すると、経営者にとって、株主提案権の存在が厄介になるというデメリットが出てきます。

株主提案権のほとんどは、否決されていますが、2021年に開催された株主総会では、ラクオリア創薬、ダイヤ通商、東芝等が可決しています。なお、昨年の大戸屋ホールディングスにおけるコロワイドによる株主提案は、多くのニュースに取り上げられました。

ここでは、株主提案権の実例を紹介させていただきます。

上場を目指す会社の経営者や社員の方々が、株式上場するデメリット・留意点のひとつを理解していただければ、幸甚です。

株主提案権と会社法

株主総会の議案は、取締役が発案し、取締役会で決定することが一般的です。

しかし、会社法第303条、第304条、第305条には株主が株主総会の議案に関して次のような権利を持っていると定められています。↓の3つの権利を総称した権利が株主提案権になります。

① 議題提案権
  • 株主が一定の事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る)を株主総会の目的(議題)とすることを請求できる権利
② 議案通知請求権
  • 議題につき株主が提出しようとする議案の要領を招集通知に記載または記録することを請求できる権利
③ 議案提案権
  • 株主総会において議題につき議案を提出することができる権利

ただし、株主提案権は、株主の誰にでも与えられる権利ではありません。

例えば、議題提案権については、総株主の議決権の1%以上(定款で引下げ可)の議決権、または300個以上(定款で引き下げ可)の議決権を6カ月前(定款で短縮可)から引き続き有する株主に限られます。

またその他にも制限が存在します。

例えば、議案通知請求権を行使することのできる議案の数の上限は 10 であるなどがあります。

株主提案権と株主総会招集請求権

株主提案権とよく似た用語に株主総会招集請求権が存在します。

その主な違いを↓で説明します。

表 株主提案権と株主総会招集請求権の違い

株主提案権 株主総会招集請求権
会社法条文 第303条、第304条、第305条 第297条
権利の内容 株主総会議案を提案する権利 株主総会の議案
権利行使資格 総株主の議決権の1%以上の議決権、または300個以上の議決権を6カ月前から引き続き有する株主 総株主の議決権の3%以上の議決権を6カ月前から引き続き有する株主

    株主提案権の濫用

    株主提案権については、いくつか問題点が存在します。

    その中の大きな問題は、株主による株主提案権の濫用です。

    いくつかの事例を↓に紹介します。

    株主提案権を濫用したと思しき事例
    • オフィス内の便器はすべて和式とし、足腰を鍛練し、株価四桁を目指して日々ふんばる旨定款に明記するものとする。(出所:野村ホールディングス株式会社 第108回定時株主招集通知より引用)
    • 当社の日本国内における略称は「YHD」と表記し、「ワイエイチデイ」と呼称する。営業マンは初対面の人に自己紹介をする際に必ず「野菜、ヘルシー、ダイエツトと覚えてください」と前置きすることとし、その旨を定款に定める。(出所:野村ホールディングス株式会社 第108回定時株主招集通知より引用)
    • 定款に以下の条文を定める。出張中における従業員による風俗店の利用を禁止する。(出所:TAC株式会社 第38回定時株主招集通知より引用)

    ↑に取り上げた事例の他、例えば活動家による株主提案権の行使(原子力発電の反対活動家による電力会社に対する株主提案権の行使)が毎年のように行われています。

    このようなことの乱発を抑えるためにも令和元年に会社法改正があり、株主提案権の行使に対し、いくつかの制限が設けられました。

    株主提案権の実例

    近年、株主提案権は外資を中心とする、いわゆる”モノ申す株主”が数多く提案しています。

    また経営権の獲得を目指す事業会社や個人による株主提案権の行使の事例があります。

    2021年に行われたいくつかの事例を紹介させていただきます。

    取締役選任・解任に関する株主提案権の実例

    旧ダイヤ通商株式会社(現株式会社CAPITA)は、個人株主4名により、臨時株主総会招集の請求を受けました。

    ↓で簡単に紹介します。

    概要
    2020/12/22 個人株主4名により、臨時株主総会招集の請求を受ける。内容は、①取締役5名の解任、②取締役3名の選任、③監査役1名の選任
    2021/02/19 臨時株主総会開催を決議
    2021/03/03 臨時株主総会招集通知発送
    2021/03/15 取締役5名辞任表明(同時に「①取締役5名の解任」の議案が撤回決定)
    2021/03/16 臨時株主総会開催。個人株主が送り込んだ②取締役3名と③監査役1名が選任される(賛成割合57.6%)

    決議の結果に関するプレスリリースは、こちらになります。

    ダイヤ通商は、個人株主によって、乗っ取られたようなイメージです。

    ラクオリア創薬株式会社においても、取締役の選任に関する株主提案が可決しています。

    株主還元に関する株主提案権の実例

    株主による株主還元に関する株主提案権の行使は、毎年数多く存在します。

    例えば、株主提案権を積極的に行使する株式会社ストラテジックキャピタルは、2021年に株主総会で次のような株主提案を行いました。

    会社 項目 株主提案内容
    極東貿易 取締役選任 取締役1名選任
    定款変更 資本コスト開示、純投資目的・政策保有株式の売却
    ワキタ 定款変更 事業目的の一部変更、資本コストの開示、株主との対話、政策保有株式の売却
    株主還元 剰余金処分:会社提案30円⇒50円
    淺沼組 定款変更 政策保有株式の売却
    株主還元 剰余金処分:会社提案257円⇒498円
    有沢製作所 定款変更 有価証券の保有運用削除、政策保有株式の売却
    株主還元 剰余金処分:会社提案39円⇒48円、積立金取崩し
    世紀東急工業 定款変更 資本コストの開示
    株主還元 剰余金処分:会社提案43円⇒143円

    出所:株式会社ストラテジックキャピタルホームページなどを元にIPOAtoZ作成

    株主還元に関する株主提案権については、剰余金処分だけではなく、自己株式取得(日鉄ソリューションズ、西川ゴム工業、ランドなど)があります。

    役員報酬制度に関する株主提案権の実例

    イギリスのファンドであるアセットバリューインベスターズは、投資先(日鉄ソリューションズ、東京ラヂエーター製造)に対し、役員報酬制度の改定として、譲渡制限付株式報酬制度の導入を提案しています。

    譲渡制限付株式報酬制度は、近年上場会社が役員報酬制度として採用している事例が急増しています。

    ↓で少し説明しています。ご参考ください。

    【譲渡制限付株式報酬制度】KHC【IPO事例】

    役員報酬制度に関する株主提案権は、譲渡制限付株式報酬制度の導入以外に報酬の個別開示(関西電力、山口フィナンシャルグループ等)もあります。

    買収防衛策廃止に関する株主提案権の実例

    コーポレートガバナンスコードの【原則1-5.いわゆる買収防衛策】には、「買収防衛の効果をもたらすことを企図してとられる方策は、経営陣・取締役会の保身を目的とするものであってはならない。」と明文化されています。

    そこで、買収防衛防止策を導入している会社に対し、株主がその制度の廃止に向けて、株主提案権の行使を行っている事例はいくつも存在します。

    2021年であれば、西川ゴム工業株式会社やヨロズ株式会社の株主総会で議案になりました。

    なお、上場申請会社が買収防衛策を導入している場合、上場達成は極めて厳しくなります。

    議決権の多い株式等は通常より少ない出資割合で会社の支配権を維持する手段として利用することが可能であり買収防衛的効果を有するものであることから、新規上場申請者の取締役等の地位を保全すること又は買収防衛策を主要な目的として議決権の多い株式等を導入している場合に、上場を認めないことにしております。

    出所:東京証券取引所 「新規上場ガイドブック」より

    取締役への責任追及に関する株主提案権の実例

    業績が芳しくない会社経営者に対して、株主が解任以外の手段で責任追及を求めるケースがあります。

    2021年に開催された株主総会では、佐渡汽船株式会社が「損害賠償請求の件」として株主提案がありました。

    株主提案権の拒否

    株主提案権が行使されても、会社は全ての提案を受け入れる必要はなく、その定めは会社法に定義されています。

    株主提案権を拒否された有名な実例は、野村ホールディングスの2012年株主総会においては、「野村ホールディングス」から「野菜ホールディングス」へ商号変更を求めるという株主提案に対して、株主総会議案に受け入れられなかったものです。

    2012年にあった株主提案権の取下げの実例としては、「法令上の要件を満たさなかった」「株主提案権を提出した株主と話し合った」「裁判で決定した」という例がありました。

    • 法令上の要件を満たさなかった:文化シャッター 関連するプレスリリースは、こちらになります。
    • 株主提案権を提出した株主と話し合った、または株主が取り下げた:ユニデンホールディングス 関連するプレスリリースは、こちらなります。
    • 裁判で決定した:フェイス 関連するプレスリリースは、こちらになります。

    まとめ

    株式上場するデメリット・留意点のひとつである株主提案権について紹介させていただきました。

    株主上場を目指すにあたって、デメリット・留意点を理解した上で、目標に向かって活動を進めていただければ、幸甚です。