三井住友信託銀行株式会社が2021年11月9日に「『ガバナンスサーベイ2021』について」というレポートをまとめ、日経新聞がこのレポートについて「社外役員の働き、投資家「不十分」」という記事を出しています。

三井住友信託銀行株式会社のレポートは、こちらになります。

日経新聞の記事は、こちらになります。

IPOの審査では、社外役員の働きぶりについて、問われることになります。

社外役員の働きぶりについては、まず取締役会や監査役会等への出席状況から確認されます。

IPOに向けて、社外役員を採用検討している経営者の方々がご参考頂ければ幸甚です。

社外役員の取締役会や監査役会出席に対する上場審査の考え方

IPOの審査では、社外役員の働きぶりについて問われることになりますが、それに関しまして、東証が発行している「新規上場ガイドブック」には、↓のような記載があります。

社外取締役は、社外での業務多忙により取締役会への出席率が低い状況です。このような状況である場合、審査上どのように判断されるのでしょうか。
取締役会に出席し、会社の事業上の重要事項に関する意思決定に参加し、また報告を受けることは取締役の重要な責務と考えられます。よって、取締役会への出席況が良好でない取締役が存在する場合には、申請会社のガバナンスが十分に機能しているとは言い難いと思われることから、上場審査上の判断は慎重なものとなります。

つまり、取締役会への出席状況が良好でない取締役(無論、監査役も同義です)は、IPOの審査でアウトという判断が下ることになりますが、東証が「出席状況が良好ではない」と判断する水準は、どの程度なのか明確になっていません。

社外役員の取締役会や監査役会の出席率に対する機関投資家の考え方

IPOの審査基準とは、直接的に明確な関係性があると断言できませんが、参考として、機関投資家はどのように考えているのかを調べてみました。

ISSとグラス・ルイスの考え

議決権行使助言会社として、ISSグラス・ルイスが世界的にシェアを二分しています。

この2社の考えは、機関投資家の考え方に大きな影響を与えています。

グラス・ルイスのPROXY PAPER GUIDELINESの中には、次のようなことが書かれています。

グラス・ルイスは、役員の活動状況を精査する際、当該役員の取締役会、監査役会、または委員会への出席状況も重要な要素の一つであると考える。年間を通して出席率が75%に満たない役員に対して反対助言を行う。

(出所:GLASS LEWIS 2021PROXY PAPER GUIDELINES )

ISSもグラス・ルイスと同じように出席率75%をボーダーラインにしていました。

両社と同じように出席率75%をボーダーラインとしている機関投資家を検索したところ、次のような機関投資家が見つかりました(本ブログ作成時点です)

  • 野村アセットマネジメント
  • J.Pモルガンアセットマネジメント
  • 第一生命保険
  • 明治安田アセットマネジメント
  • 三井住友トラスト・アセットマネジメント
  • ニッセイアセットマネジメント
  • 東京海上アセットマネジメント

ISSとグラス・ルイス以外の考え

ISSとグラス・ルイスは、75%をボーダーラインにしていましたが、それとは違う機関投資家が存在しました。

その例を2社紹介させていただきます。

  1. 合理的な理由なく取締役会への出席率が 75%未満である者
  2. 社外取締役や社外監査役など社との兼任が5社以上ある者で、取締役会への出席率が80%未満である者

(出所:SOMPOアセットマネジメント 国内株式議決権行使基準より)

  1. 取締役会への出席率が 85%未満の場合、原則反対。
  2. 監査等委員である社外取締役は、取締役会または監査等委員会の何れかへの出席率が 85%未満の場合、原則反対。

(出所:アセットマネジメントOne 国内株式の議決権行使に関するガイドラインおよび議案判断基準より)

社外役員が取締役会等への出席率が85%未満になればイエローカード、75%未満になればレッドカードとして解釈することが出来るかもしれません。

2020年東証上場達成企業の社外役員の取締役会出席状況

2020年に東証へ上場した会社(東京プロマーケット市場除く)の社外役員の取締役会や監査役会の出席状況を調べてみました。

その結果を表1にまとめました。ただし内容の正確性を保証しておりませんことにご

カーブスホールディングスは、申請期が「監査等委員1名取締役会75%,監査等委員会83%」となっていますが、「監査等委員の中の1名が取締役会への出席率が75%であり、監査等委員会への出席率が83%でした」ということです。

表1 2020年に東証へ上場した会社の社外役員の取締役会出席状況

直前期※ 申請期/申請翌期※
ジモティー、AHCグループ、きずなホールディングス他54社 開示なし 全役員が全取締役会等に全回出席
カーブスホールディングス 監査等委員1名取締役会75%,監査等委員会83%
ミクリード 社外取締役1名取締役会93%
関通 監査等委員1名監査等委員会83%
日本インシュレーション 社外取締役1名取締役会96%

社外監査役1名取締役会96%

NexTone 社外取締役1名取締役会81%
Macbee Planet 社外監査役1名取締役会94%、監査役会85%
アイキューブドシステムズ 社外取締役1名取締役会90%
ティアンドエス 社外監査役1名取締役会94%、監査役会93%
日通システム 社外監査役1名取締役会92%、監査役会92%
カラダノート 社外監査役1名監査役会92%
バルミューダ 社外取締役1名取締役会86%

社外監査役1名取締役会93%

かっこ 監査等委員1名監査等委員会94%
リベルタ 社外監査役2名取締役会94%
コンピューターマネージメント、ロコガイド他15社 全監査役または全監査等委員が毎回出席 全役員が全取締役会等に全回出席
Branding Engineer 社外監査役1名取締役会94%
フォーラムエンジニアリング 社外取締役1名取締役会93%
ビートレンド 監査等委員1名取締役会94%
木村工機 社外監査役1名取締役会80%監査役会64%
MITホールディングス 社外監査役1名取締役会93%監査役会93%
Fast Fitness Japan 監査等委員1名取締役会84%,監査等委員会85%
Retty、オーケーエム 辞任した監査役または監査等委員以外は、全会出席 全役員が全取締役会等に全回出席
アースインフィニティ 監査等委員1名取締役会86%
ウイルテック 監査等委員1名監査等委員会90% 全役員が全取締役会等に全回出席

※ 「直前期:各社のⅠの部」「申請期/申請翌期:各社の上場直後の株主総会招集通知」を元に作成

出所:IPOAtoZ作成

分析

社外役員の会議出席状況分析

Ⅰの部で開示されている限りになりますが、直前期の社外監査役または監査等委員は、ほぼ全て出席していました。

ウイルテックの 1名の監査等委員が監査等委員会への出席率が90%でしたが、欠席数はたった1回だけでした。

社外役員が直前期に会議へ欠席をすることは、相当な理由が無い限り、NOのようです。

一方、上場後には、会議を欠席する社外役員が散見されますね。

なお、2021年のIPOも含めて確認したところ、2021年7月30日にIPOをしたAIメカテック株式会社の神戸秀典社外取締役が監査役であった際に2回監査役会を欠席している例がありました。

まとめ

IPOAtoZでは、Ⅰの部や有価証券届出書等に書かれている内容をいろいろデータ形式でまとめています。

IPO AtoZが推進するオンラインサロンでは、そのデータを参考にした議論を行っています。

ぜひご参加下さい!