東京証券取引所が定める「上場審査等に関するガイドライン」には、「その他の特定の者」という言葉が出てきます。

ここでは、「その他の特定の者」とは何か、また具体的な事例を紹介します。

「その他の特定の者」とは

上場審査等に関するガイドラインⅣ 2.(3)は、次のようになっています。

上場審査等に関するガイドラインⅣ 2.(3)

新規上場申請者の企業グループが、その関連当事者、その他の特定の者との間の取引行為又は株式の所有割合の調整等により、新規上場申請者の企業グループの実態の開示を歪めていないこと。

つまり東証は、上場申請会社が関連当事者と同様「その他の特定の者」と取引を行っている場合、しっかりと審査させてもらいますよ。

という意味になります。

上場準備における「関連当事者」と「その他の特定の者」との比較を表1でまとめます。

表1 「関連当事者」と「その他の特定の者」の比較

関連当事者 その他の特定の者
取引内容 Ⅰの部に記載要 Ⅰの部に記載不要
上場審査 審査対象 同左
リスク情報 申請会社の事業運営に影響を与える可能性がある場合、記載要 同左

上場準備に関する本やサイトの中に、「関連当事者取引を整理しましょう!」という趣旨の説明が散見されますが、細かい事を申し上げると、それだけでは不足しておりまして「関連当事者及びその他の特定の者との取引も整理しましょう!」または「関連当事者”等”取引を整理しましょう!」が正解になります。

ちなみに関連当事者と関連当事者等につきましては、↓で説明しています。

「関連当事者」と「関連当事者等」の用語解説【IPO用語】

「関連当事者」という用語は、「財務諸表等規則第8条第 17 項」の中で定められている一方、「その他の特定の者」とはどのように定められているのかというと↓のような感じになっています。

「その他の特定の者」とは

関連当事者の範囲に含まれないものの、申請会社の企業グループと人的、資本的な関連を強く有すると考えられる者を指します。

(出所:東京証券取引所 新規上場ガイドブック)

ここにある「人的、資本的な関連を強く有すると考えられる者」として参考になる記事が↓になります。

「人的関係会社」「資本的関係会社」がそれにあたります。

「関係会社」「人的関係会社」「資本的関係会社」とは【混乱しやすいIPO用語】

↑の記事を読んでいただければわかりますが、どちらかと言いますと「人的」がわかりにくいと思います。

「その他の特定の者」の事例と対応

上場達成した会社の中で「その他の特定の者」が存在し、その中で「人的な関連を強く有すると考えられる者」と思しき事例を2つ紹介させていただきます。

㈱ポピンズホールディングスにおける「その他の特定の者」

2020年12月に上場した㈱ポピンズホールディングスのリスク情報には、次のような一文が存在します。

ポピンズホールディングスのリスク情報

一般社団法人日本女性エグゼクティブ協会(JAFE)との関係について 当社代表取締役会長である中村紀子(戸籍名:軣紀子)氏が理事長を務める当社グループの外郭団体として、一般社団法人日本女性エグゼクティブ協会(JAFE)があります。当社グループとしましては、CSR活動の一環としてJAFEの活動方針に賛同し、様々な支援(寄付の実施、人材支援等)を行ってまいりました。今後は寄付を行わない方針であります。 具体的な法人の活動内容、当社グループからの支援状況は次のとおりであります。

外郭団体名 活動目的・内容 当社株式保有状況 当社グループからの支援の内容
(社)日本女性エグゼクティブ協

(JAFE)

(目的)

女性管理職の育成とネットワーキングの支援及び、子育てをする親及び在宅で援助が必要な高齢者やその家族に対して、支えあいの精神による市民参加のもとに、地域に根ざした子育て支援と介護サービスを提供し、男女共同参画社会の形成、子どもの健全育成、及びすべての人々が健やかに安心して暮らせる地域社会づくりに寄与することを目的とする。

(内容)

・会員向けセミナー(女性管理職)

・一般向けセミナー(子育て・介護等)

なし 寄付金

2018年12月期

10百万円

 (出所:㈱ポピンズホールディングス Ⅰの部より)

日本女性エグゼクティブ協会のHP(こちらになります)を拝見すると、中村紀子様は理事長ではなく、代表という肩書になっています。

会社の事業運営そのものとは直接関係無く、代表取締役が責任者になっているような団体への寄付行為をはじめとする取引は、見直しを要する事になります。

ポピンズの場合、寄付金は、直前々期まで続き、直前期で解消された事になります。

エフビー介護サービス㈱における「その他の特定の者」

2022年4月に上場したエフビー介護サービス㈱のリスク情報には、次のような一文が存在します。

エフビー介護サービス㈱のリスク情報

当社の代表取締役会長兼社長である栁澤秀樹は、自身が生まれ育った地元地域において高齢者福祉施設及び介護老人保健施設の運営を目的に、2002年7月に社会福祉法人佐久平福祉会(長野県佐久市)を設立し、2020年9月末まで理事長に就任しておりました。当社グループと同法人との間で資本関係はありませんが、当社の代表取締役会長兼社長が同法人の運営に関わっていたことを考慮して、社内規程に基づき、同法人との取引の必要性、取引条件の妥当性等を慎重に検討した上で、取締役会の承認を得ることとしており、取引の適正性を確保する体制を築いております。また、取引額が関連当事者の開示に関する会計基準で定める水準になった場合には、取引状況を開示いたします。しかしながら、このような管理体制にも関わらず、取引の適正性が認められない取引が行われた場合には、当社グループの経営の健全性が保たれないこととなり、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 (出所:エフビー介護サービス㈱ Ⅰの部より)

社会福祉法人佐久平福祉会のホームページは、こちらになります。

直前期に理事長を退任し、社会福祉法人佐久平福祉会との取引を行う場合、利益相反取引と同様な手続きで行う旨、また開示も関連当事者取引と同様な基準で開示すると書かれていますね。

ポーラオルビスホールディングスにおける取引

こちらの取引は、関連当事者取引になりますが、このブログ記事を書いた趣旨からすると、参考事例に入れてもよいのではと考え、紹介させていただきます。

ポーラオルビスホールディングスのリスク情報

公益財団法人ポーラ美術振興財団は、平成8年5月、当社グループの元会長であった故鈴木常司が、「我が国の芸術文化の向上に寄与する」ことを目的に設立した財団法人であります。当社グループは、創業時より「美と健康に関わる事業を通じて社会に貢献すること」を企業理念としていることから、同財団に対して、設立当初よりその活動に賛同し、様々な支援(寄付の実施(注1)、美術館建設資金の借入に対する債務保証(注2)、学芸員等の人員を出向させるなどの人的支援(注3)、美術品の寄託(無償)等)を行ってまいりました。なお、本書提出日現在においては、債務保証は解消され、今後の寄付実施の予定はありませんが、人的支援及び美術品の寄託(無償)等については今後とも継続する予定であります。
また、同財団は、本書提出日現在、当社株式19,654千株を保有しており、これは、発行済株式数の34.31%(議決権比率38.32%)に当たります。当社代表取締役社長鈴木郷史は同財団の理事長を兼務しておりますが、当社代表取締役社長を含む当社グループ関係者の理事は、同財団の保有する当社株式に係る議決権行使については関与をしない方針です。

(注1)寄付の実施については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等」における「関連当事者との取引」に記載のとおりであります。
(注2)美術館建設資金の借入に対する債務保証については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等」における「連結貸借対照表関係」に記載のとおりであります。
(注3)人件費相当額については、同財団の負担として支払いを受けております

おそらくここまで整理出来れば上場を承認するというラインについて、東証と主幹事証券会社間で打ち合わせを重ねたのではないかと推察します。

まとめ

「その他の特定の者」に関する説明と事例を紹介させていただきました。

↑の3社の事例を通じて、直前期までには何とかする。また今後の方針を含め、開示も行うというのが基本線であることは間違いなさそうです。

昔の記憶で申し訳ありません(間違っているかもしれません)が、確か日本マクドナルドが東証1部上場会社ではなく、ジャスダック上場会社であった最大の理由は、「その他の特定の者との取引」が起因していたと記憶しております。

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