特に飲食店や小売店のような多店舗運営会社がⅠの部のリスク情報に多く書かれている項目として、退店に伴うリスクがあります。

そこで、IPO審査における定番質問のひとつに「店舗の退店基準は、どのようになっていますか?」があります。

ここでは、店舗撤退・店舗退店基準について、取り上げさせていただきます。

店舗撤退・店舗退店基準の重要性

上場を申請する際、Ⅰの部を東証に提出し、上場する際、目論見書有価証券届出書を開示することになります。

それらの書類の中には「リスク情報」という欄が存在します。

特に多店舗経営している会社の多くは、店舗の撤退や退店をすると判断した場合、経営リスクが発生する可能性があるという内容がリスク情報に記載されています。

事例を↓に紹介させていただきます。

エフビー介護サービス株式会社のリスク情報

【介護施設の長期賃貸借契約について】

当社グループは、介護施設及び事業所の開設にあたっては、土地及び建物等の設備投資が必要であることから、各施設の展開は土地の賃借を基本とした設備投資方針を採用しています。今後、事業環境の変化等により、当社の施設利用者が減少し、運営事業所の採算が計画を下回る等の状況により事業所の閉鎖を判断した場合、長期賃貸借契約の内容によっては、一定期間は撤退の制約が課せられ、これに反した場合は中途解約による違約金等の支払が発生し、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

(出所:エフビー介護サービス株式会社 Ⅰの部より)

株式会社ASNOVAのリスク情報

【営業不振による退店及び減損会計の適用について】

当社は、機材センターの新規出店を重要な経営戦略の一つと位置づけております。機材センターの新規出店に当たっては、商圏人口・仮設工事業者数・競合店状況等の立地条件や地価・賃借料等の経済条件を基に、売上及び利益等の業績予想、投資回収年数等を勘案し出店の可否を決定しております。しかし、出店した機材センターが当初の計画通りの収益を計上できず、業績の回復が図れない場合には、減損会計の適用により減損損失を計上することを余儀なくされ、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。さらには、退店等撤退する場合には、当該機材センターにおいて収益を獲得する機会を逸することとなり、当社の業績に影響を及ぼす可能性があります。

加えて、機材センターの土地を取得する際は、一定の収益獲得を前提としたプレミアム部分を上乗せするケースも多いため、当該収益性が低下した場合に、使用価値で投資回収できず正味売却価額を回収可能価額として評価せざるを得ない状況となり、減損損失を余儀なくされ、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

(出所:株式会社ASNOVA Ⅰの部より)

店舗撤退に関するIPO審査

IPOの審査では、Ⅰの部に記載されている内容の確認、また記載されていない内容の漏れの有無を確認されます。

そして、多店舗経営企業に対しては、リスク情報への記載項目として、ほぼ間違いなく、店舗の撤退等による損失発生の可能性について確認されます。

会社の経営リスクに対して、会社全体として、どのような形で取り組みを行っているのかという内容が中心になります。

上場申請企業は、店舗の撤退をどのようなプロセスで決定するのかをキチンと説明できなくてはいけません。

最低限、「誰が」「どのような基準になれば」「然るべき会議に付議し」「当該会議で決議する」という社内規則は必須と思われます。

決してIPO審査で「社長の勘で全て決まってます」という回答をしてしまえば、審査担当者の評価はナイアガラです。

店舗撤退・閉店管理規程のひな型

私が住む関西には、大阪梅田に国内書店売上トップ3に入る紀伊国屋梅田本店という書店があります。

その書店には、市販の規程集が数冊、棚に並んでいましたが、どの規程集にも店舗撤退に関する規程が存在しませんでした。

ググっても、全く出てきませんでした。

そこでブログの中の人が使っている店舗撤退・閉店管理規程のひな型を公開することにしました。ご参考下さい。

あくまでもブログの中の人が利用するものでありまして、皆様は、主幹事証券会社やIPOコンサルの方等の専門家とご相談の上、各会社の運営出来そうな規程を作成していただきますようお願いします。

もしこのひな型案をベースに規程を整備された方は、「このひな型案をベースに作成しました」とIPOAtoZまでご連絡頂ければ、幸甚です。

店舗撤退・閉店管理規程ひながた案

第 1 章 総 則

(目 的)
第 1 条 この規程は、店舗の撤退及び閉店に当たり、決議までの手順を明確にするとともに、当社が撤退及び閉店において的確な判断を下すことを目的とする。

(主管部門)
第 2 条 本規程の主管部門は●部とする。

(用 語)
第 3 条 本規程における用語の定義は、以下の通りとする。
1)撤退:当社の事情による店舗の閉鎖又は、中途撤退、契約満了による撤退等。
2)閉店:地権者からの申入れを起因とした契約満了による閉店の場合、又は移転による閉店など1)以外の事情で店舗を閉鎖すること。

第 2 章 撤退・閉店

(撤退のリスク)
第 4 条 撤退するに当たっては、以下のリスクについて検証しなければならない。
1)固定資産除去損、敷金及び保証金の返還破棄などによる特別損失額の見込み。
2)リース解約金、原状回復費用、中途解約違約金などによる現金支出額の見込み。
3)当社ブランドに対するレピュテーションリスク。
4)店舗従業員の士気低下。

(撤退検討基準)
第 5 条 ●部長は、店舗が次の全ての条件に該当する公算が生じた場合、その方針について取締役会の承認を得なければならない。
1)店舗単独損益が●期連続での赤字となることが判明した場合。
2)前号に拘わらず、【店舗商圏の中/店舗から●m以内】に競合の●や●が進出する事が決定した、また店前の通行量が著しく減少するような計画が実行された等、店舗の立地環境に変化により店舗単独損益に大きな悪影響をもたらすような情報を得た場合。
2.前項に関わらず、店舗営業継続が困難と認められる事象が発生した場合も、同様の扱いとする。

(撤退議案)
第 6 条 ●部長が、前条の取締役会で承認された方針に至った場合、当該撤退候補店舗の最終営業日の●ヶ月前までに、経営会議に閉店に関する議案として提出し、審議するものとする。
2.経営会議では、主に以下の事について検討する。
1)店舗の構造変更、立地条件変更、移転、店長等のマネージャー変更等による黒字転換の可能性。
2)赤字を補い、正当化できるだけの、他の経営メリット(宣伝効果、ブランドイメージ向上効果等)の存在有無。

(撤退決議)
第 7 条 ●部長は、前条の経営会議での審議後(原則として当該撤退候補店舗の最終営業日の●か月前)、取締役会にて撤退議案を起案し、承認を得なければならない。ただし、個別契約により解約の事前申入れ期日期間が異なる場合、あるいは定期借地権付契約による場合には、議案起案の時期には注意を要するものとする。
2.取締役会で起案する当該撤退店舗の資料は以下の通りとする。
1)損益計算書に係る資料(過去実績及び今後の見通しに関する資料)
2)撤退に伴う特別損失額及び現金支出額の見込み
3)最終営業日及び最終退店日
4)前条の経営会議議事録
3.●部長は、取締役会決議のあと、速やかに各部に報告を行わなければならない。

(撤退準備)
第 8 条 ●部長は、当該撤退候補店舗の最終営業日の●ヶ月前までに地権者に対して文書で契約の解除の申入れを行うものとする。ただし、個別契約により解約の事前申入れ期日期間が通常と異なる場合など、個別の契約事情を勘案したうえで、前条に定める必要な手続きを行わなければならない。
2.●部長は、本社●担当者通じ撤退候補店舗の最終営業日の●ヶ月前までに店舗社員(パートタイマーを含む)に対して店舗の閉店を周知しなければならない。
3.●部長は、当該撤退候補店舗の最終営業日の●ヶ月前までに転用の可否についての検討を●部長と行い、リース契約、保険契約などの解除の申入れを行わなければならない。
4.担当営業部長は、最終営業日の●カ月前までに店舗従業員の人事異動提案書を申請し、決裁を取らなければならない。

(賃貸借契約の解除)
第9条 ●部長は、地権者との賃貸借契約解除の申入れにあたり、長年の賃借に対して誠意のある態度で臨まなければならない。
2.●部長は、第7条における取締役会決議後、速やかに解約申込書を作成し、解約手続きを取らなければならない。

(パートタイマーの処遇)
第10条 パートタイマーの処遇についてはまず近隣店舗への配置転換の受入を第一義とするものとする。ただし、やむを得ず退職する人に対しては、法令及び当社●規程を遵守し、適正に処遇しなければならない。

(経理処理)
第11条 経理処理については、適正な会計処理を行うものとする。ただし、固定資産の除去及びリース資産の異動などは営業にかかわる所管責任者がその責を負い、移動資産に関しての稟議を行うものとする。
2.当該撤退店舗に関する帳票、伝票、契約書及び重要文書については、別に定める「●規程」の定めに従うものとする。

(地権者への対応)
第12条 地権者から閉店の申入れがあった場合は、法令、契約書にもとづき協議する。
2.協議が難航し、地権者が当社の申入れに応じないときは、裁判所に対して、損害賠償請求を申し立てる。
3.当社は、顧問弁護士を代理人とする。

(閉店決議)
第13条 地権者からの申入れにより、契約書の解除について合意した場合は、●部長は、理由を明確にし、閉店起案を行い、取締役会での承認を受けなければならない。

(その他)
第14条 閉店の場合も第10条パートタイマーの処遇及び第11条経理処理については、これを準用する。

第 3 章 附 則

(附 則)
第15条 ●年●月●日 制定。
2.この規程の改廃は、「●規程」の定めるところによる。

この規程案では、店舗運営に一定のアラートが発生した場合、今後の方針を取締役会で定め、その方針に抵触した場合、一旦経営会議で協議し、その協議結果を元に、再度取締役会に諮り、撤退を決議するという内容です。

決して、このフローを遵守する必要はありません。また、どの会社でも、店舗の撤退に関する規程が必要になるかどうか、わかりません。

まとめ

店舗撤退・店舗退店基準の重要性とともに、店舗撤退・閉店管理規程ひながた案を紹介させていただきました。

規程作成の要否の判断、また規程の内容の判断につきましては、主幹事証券会社やIPOコンサル等とご相談の上、作成してください。

店舗撤退・店舗退店と反対である店舗開発についてもブログで取り上げています。

ぜひご参考下さい。

店舗開発基準の重要性(店舗開発規程のひながた案)

IPOAtoZの中の人は、上場準備会社様へ規程作成のサポートを行っています。

上場を目指す会社関係者の方、またIPOコンサル会社の方々と積極的にコラボしたいと考えております。

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