ステムリムのIPO

ステムリムは、再生医薬の医薬品を開発するバイオベンチャーです。

ステムリムは、バイオベンチャーらしく、上場前だけではなく、上場後もしばらくの間、赤字決算が継続しそうな事が想定されますが、技術水準、社会的ニーズを含めた将来性への期待等、マザーズ銘柄としては文句のつけようがない事業内容であると評価されて、IPOを達成できたと推察します。

しかし、ステムリムにとってのIPOは、思惑通りに進んでいるとは言えない状況にあります。

表 ステムリムのIPOの概要

上場承認時 公開価格決定時 IPO時
株価 想定発行価格:3,050円 発行価格:1,000円 初値:930円
株数

発行株式総数:600万株

売出株式数:240万株

発行株式総数:810万株

売出株式数:30万株

手取 手取概算額:204億円 手取概算額:116億円

発行価格が想定発行価格の1/3を切るという例は、非常にレアなケースです。

発行価格が想定発行価格を下回ったため、IPOによる手取金額が半分以下になりました。

また売出株式数を減らさざるを得ない状況になったため、創業者利益が大幅に減りました。

発行価格と想定発行価格については、こちらで説明しています。ご一読ください。

発行価格(公募価格・公開価格)【IPO用語】

IPOの手取額が、想定と大幅に異なる場合、投資計画へ大きな影響が出ます。ステムリムは、IPOによって、3年間の研究開発費や設備投資資金の獲得を望んでいたようですが、残念ながらその望みをかなえる事ができず、1年間のみの研究開発費や設備投資資金しか得る事ができなかった模様です。

表 ステムリムのIPOによる手取金の使途要約

上場承認時 公開価格決定時
「再生誘導医学研究所」及び「動物実験施設」の設立資金 14,620百万円 7,195百万円
現状および新規パイプラインに係る研究開発費用 5,335百万円 1,430百万円
事業拡大のための優秀な人材確保を目的とした人件費 474百万円 0

出所:(株)ステムリム有価証券届出書より

ステムリムの目論見書

なぜこんな状況になったのかを検討します。

理由①【権利行使価格が低いストック・オプションが大量に発行されており、上場後すぐ行使可能である。】
決議日 株数 行使価格 行使期間
2010/03/28 1,950,000 2 2012/03/29~2020/03/28
2010/03/28 1,290,000 2 2012/03/29~2020/03/28
2012/05/31 1,335,000 2 2014/06/01~2022/05/31
2013/07/31 1,803,000 5 2015/08/01~2023/07/31
2014/06/13 495,000 100 2016/06/26~2024/06/25
2014/12/05 438,000 283 2016/12/06~2024/12/05
2014/12/05 153,000 283 2016/12/06~2024/12/05
2017/10/26以降 827,700 300

2019/10/27~2027/10/26

2020/10/26~2028/10/25

権利行使価格が10円未満であり、かつ上場後、すぐに権利行使可能なストックオプションが多く存在しています。その数は、発行済株式数の10%を超えるため、上場後すぐに一気に希薄化が進む事が想定されます。

理由②【ベンチャーキャピタルに対し、ロックアップが掛かっていない。】

ステムリムには、多くのベンチャーキャピタルが出資しており、その保有割合はIPO前では20%を超えています。しかし多くのベンチャーキャピタルに対し、ロックアップが設定されていないため、イグジットを急ぐベンチャーキャピタルがIPO直後に株式売却を進め、株価が低迷する可能性があります。

ロックアップは、こちらで説明しています。ご参考ください。

ロックアップ【IPO用語】

理由③【IPO前の株価と乖離が大きい】

ステムリムの上場日は、2019年8月9日です。その約5か月前である2019年3月15日にストックオプションを発行していますが、ストックオプションに採用した株価はDCF方式で算定した株価であり、その額は300円です。想定発行価格は3,050円なので、ステムリム側の算定ではIPOによって株価が10倍になったという事になります。

投資家からの目からすれば、IPO効果によって、ステムリムは爆発的にキャッシュを稼ぐ事が出来る会社へ変革を遂げた事を理解できなければ、3,050円という想定発行価格に対して納得が出来ないものと思われます。

IPOの始め方

IPO準備においてステムリムの事例は、次のような点で参考になると思います。

ステムリムの事例を「他山の石」にするために
  1. ストックオプションの発行数と権利行使期間は、発行価格に影響が出ると認識する
  2. ロックアップは、株価形成にとって重要なファクターになると認識する
  3. 特にIPO直前に第三者割当増資やストックオプション発行を行う場合に採用する株価は、発行価格に影響することを認識する

ステムリムは、創業以来、場当たり的な資本政策が継続していたのではと想像できます。

IPOの失敗事例

IPOの失敗事例は、IPOを目指す会社にとって、非常に有益な情報です。

IPOAtoZでは、IPOの失敗事例を取り上げています。

こちらにあります。ぜひご参考ください。

これからもどんどん増やしていきます。